Avant que nous disparaissions
黒沢清監督の最新作『予兆 散歩する侵略者』は、今回紹介する『散歩する侵略者』のスピンオフとして制作された。本当に多作の同監督はこの2本を続けざまに撮影した。配給の方が追いつくのが大変だ。元祖は、前川知大(劇団イキウメ)の戯曲を原作としている。「宇宙人侵略ものを以前から撮りたかった」黒沢監督にとって好機到来。
まずこの映画にはとぼけた味がある。人格が豹変した夫の真治(松田龍平)に手を焼く妻の鳴海(長澤まさみ)。ある日、夫は妻に「自分は宇宙人である。地球を侵略に来た。人間のことがよく分からないからガイドになってくれ」と言い出す。はぁ~?半信半疑の鳴海、とにかくボディーは以前と同じ真治である。
一方で、一家惨殺事件が起き、高校生の娘だけが生き残り逃走するという事件が起きる。ジャーナリストの桜井(長谷川博己)が真相を追う。そして二人の若者宇宙人に出会う。ガイドを頼まれた桜井もまた半信半疑だが…。この宇宙人たちは「家族」とか「仕事」とか「所有」といった人間の概念を奪う。彼らにこういった概念はないのだ。そして奪われた方の人間はやけに解放されてしまう。
ちょっと今の世界、人間社会に起きていることを考えてみよう。どう見てもネガティヴだ。人類は、地球は危ない方向へ突っ走っているように思える。こんな時に、人間同士の争いを超えた外敵=宇宙からの侵略者が現れたら……こんなことを夢想する。本作は何気にそこを突いている。そして最後の概念「愛」が、妻の鳴海から夫の真治へ渡った時に何が起こるか……? はばったい言い方だが、この夫婦の愛が地球を救ったのだ。本作はここで愛の感動作になる!
ジャンル映画が大好きな黒沢清は、ジャンル映画を撮りながら、大きなテーマに何気に迫る。この黒沢流の何気ない感じがまた良い。この映画は何気なく実は大傑作なのだ。 (吉)