朝鮮戦争が終わった1953年以降、外国で養子となった韓国の子供の数は約20万人。フランスはその受け入れ先のひとつ。映画界もその影響が見られる。ウーニー・ルコント監督は養子だった体験を基に『冬の小鳥』(2009年)などの秀作を発表。2014年~16年まで文化相を務めたフルール・ペルランは養子の生い立ちが話題に。彼女が韓国に到着した際、取材陣に「(親を探すつもりは)ない。私はフランス人」と答えた。
本作は韓国に多い国際養子縁組から生まれたドラマ。主人公のフレディ(パク・ジミン)は、フライトの関係で偶然ソウルに降り立つ。顔つきはアジア人だが韓国語は解さない。だが彼女の場合はペルラン元文化相と違い、生物学上の親を探す気になった。養子縁組斡旋センターに赴き両親に連絡をとる。比較的簡単に会えるのが父親だ。父と彼の現在の家族は彼女を歓迎する。だが父の距離の取り方は奇妙で、祖母のリアクションは大袈裟である。では、母親との再会は?
現地の人はフレディに「酒を自分で注ぐのは礼を欠く」と諭す。だが彼女は答える。「誰に対して?」。そして手酌でグイッ。自分の感情に正直だから、時に周囲をかき乱すことも。およそ外国人が勝手に思い描くアジア人女性のイメージとかけ離れているのがフランス人のフレディだ。
映画は数年単位の長いスパンで、本人と韓国の関係を追う。数回の訪問で本人はいかなる変容を遂げるのか。それは本人も予想できないはず。観客の思惑を軽やかに裏切る展開が心地よい。
本年度のアカデミー賞外国語映画賞カンボジア代表作品。監督はカンボジア系フランス人ダヴィ・シューで、韓国系フランス人である友人の実体験に着想を得た作品だ。(瑞)