カンヌ映画祭のコンペ部門に入った4本のフランス映画のうちの一本。この20年で長編17本目となる多作の人、フランソワ・オゾン監督最新作だ。クラシカルな反戦ドラマの前作『Frantz』から一転、今回はデ・パルマやヒッチコック、クローネンバーグの影響も感じさせるエロティック・心理スリラー。ノーベル文学賞候補と目されるアメリカ人作家ジョイス・キャロル・オーツの『Lives of the Twins』を大胆に翻案した。
主要キャスト、スタッフとともに記者会見に臨んだオゾン監督は、「私の作品中で最も遊び心がある。どのような映画表現になるかは物語が決めること。今回はジャンル映画のコード(規約)で遊んだ」と余裕の笑顔。
腹痛に苛まれるうつ気味の元モデルのクロエ(マリーヌ・ヴァクト)と、彼女を診るサイコセラピスト、ポール(ジェレミー・レニエ)。2人は愛し合い、同棲を始める。だがカウンセリングを介し心のうちを吐き出すクロエに対し、ポールは自らについて多くを語らない。実は彼には同じ仕事をする双子の兄弟が存在するのだが…。
「観客も謎解きに参加する。精神分析とスリラーは神秘を解き明かそうとする意味で共通点も多い」(オゾン)。物語は嫉妬と疑いを動力に、嘘と真、妄想と現実の境界線を溶かしながら進む。劇中では鏡が効果的に使われる。まるで謎を乱反射させながら、観客を錯乱へと誘い込むようだ。
カンヌのプレス上映では、冒頭で産婦人科目線で女性器の内側が大写しとなり、会場から嘲笑めいた拍手も。しかし確信犯的に挑発めいた表現はあっても、その表現は下品さにひきずられず、優雅さとユーモアさえ漂う不思議な作品。今回も映像の魔術師オゾンにしてやられた。公開中。(瑞)