2015年11月13日に起きたパリ同時多発テロの裁判がパリで始まった。パリ郊外スタジアム前、パリ10、11区のカフェやレストランのテラス、コンサート劇場バタクランで130人死亡、数百人が負傷したテロだ。過激派組織「イスラム国(IS)」が、イスラムの地を攻撃し預言者を侮辱したフランスを標的にしたと犯行声明を出した。仏史上最悪のテロは、今も多くの人のトラウマとなっている。
原告は1765人、原告・被告の弁護士が計330人、数百人の記者や傍聴人などが参加する「世紀の裁判」は、17区の新しいパリ裁判所でなく、シテ島のパレ・ド・ジュスティスで行われる。この裁判のために、750万ユーロをかけて1年半の改修工事を施し、550人収容の大法廷に加え、同時中継で公判を見られる12の別室があり、計2000人の収容が可能だ。外国の被害者や家族が公判を聞けるようにウェブラジオも活用され、公判は録画される。約9ヵ月の裁判の判決は来年5月頃の予定だ。
裁かれる被告20人のうち、出廷するのは14人。注目されるのは、実行犯10人(9人は現場で自爆/射殺、あるいは後に射殺された)のうち、殺戮を行わずに逃亡した唯一の生存者である仏人サラ・アブデスラムが捜査中の黙秘を翻して尋問に答えるかどうかだ。他に武器・資金供給、爆発物製造、実行犯の移動、隠れ家の手配などの共犯容疑が13人。ほとんどは移民系ベルギー人やベルギー在住のモレンベーク・グループだ。欠席の被告はテロを計画・主導したIS幹部のシリア人オマール・ダリフとベルギー生まれのウサマ・アタールほか、仏人クラン兄弟ら6人で、うち5人は死亡したと推定され、残る一人はトルコで収監中。
ル・モンド紙電子版8月28日付は、ベルギー警察がテロリストの行動を察知しながら他国と協力して事件を未然に防げなかったと、調査報告書をもとに報じているが、こうしたことは公判で明らかになるのか? 公判では、テロ事件の検証、被害者の証言(5週間)、被告の経歴、被告らへの尋問、外国で有罪判決を受けたテロリストのテレビ証言などが予定されている。犠牲者の遺族や生き延びた人たちにとっては、どんな人たちが、どのようにして、なぜテロ事件を起こしたのか、報道では知り得なかった情報を知ることができる機会だ。しかし、テロを計画した人や実行犯が不在のまま、どこまで知ることができるかは疑問だ。被害者、そして国民が何らかの回答を得るのにかかる9ヵ月は長いようで短いかもしれない。(し)