
ブラディ・コーベット監督『The Brutalist』
ホロコーストをくぐり抜け、渡米する男の瞳に映るのは自由の女神像。が、この国の精神は本当に自由なのか。ベネチア映画祭銀獅子賞(監督賞)と国際映画批評家連盟賞を受賞した『The Brutalist』は、ハンガリー系ユダヤ人建築家の約30年の人生絵巻。フィルム撮影のビスタビジョンで描く壮大な叙事詩的作品だ。
監督は子役出身で、今回が長編三作目のアメリカ人ブラディ・コーベット。ベネチアの会見では、熱狂するジャーナリストを前に「作るのに困難を極めた。7年間取り組んだから感慨深い」と声を震わせた。
本作は3時間30分の長尺も話題。カウント表示付きのインターミッション(途中休憩)の挿入も珍しい。監督は「上映時間の議論は馬鹿げている。700頁と100頁の本を比較し批判するようなもの。重要なのは語るべき物語がどれだけあるか」と一蹴した。
主人公ラースローを演じるのは、『戦場のピアニスト』で知られるエイドリアン・ブロディ。ただし本作は『戦場のピアニスト』と異なり、主人公は架空の人物である。「戦争中に消えたバウハウスの建築家たちは、その後何をしたかわかっていない。これは自身のビジョンを実現できなかったアーティストに捧げるファンタジー」と語った。
ラースローは富豪の要請で巨大な建設計画に参加。一方、彼の身内にはイスラエル移住を望む者もいる。「この設定を政治的な意味で捉えてほしくない。これはファシズムから逃れ、資本主義に出会う人間の物語」と付け加えた。(瑞)
