
トランプ大統領が4月2日に発表した「相互関税」により欧州連合(EU)諸国に20%が課せられるとしたら、フランスへの影響は具体的にどのようなものになるのだろうか?
トランプ大統領は、相互関税が適用されるはずの9日、同関税の導入を90日間停止することを決めたため、90日後にその税率が適用されるか否かは今後のEUと米の交渉次第となる。フランスの対米貿易は輸出470億€に対して輸入527億€と赤字であるため、すでに自動車への課税率25%で打撃を受けているドイツ、あるいは米国への輸出依存度の高いイタリア、アイルランドほど影響はないといわれるが、それでも雇用も含めた様々な側面に影響が生じることは間違いない。米への輸出分野のトップは航空宇宙分野、続いてガスタービン、ワイン&スピリッツ、医薬品、香水&化粧品となる。
航空宇宙の欧州企業エアバスは、一部の生産を米国で行なっており、同国での組立工場の拡大も予定されているため影響は抑えられる見込みを示している。ワインは2024年で24億€、コニャックなどのスピリッツは15億€を米に輸出している。一時トランプ大統領が、EUがバーボンに報復課税すればEU産のアルコール類に200%の関税をかけると脅していたが、EUはバーボンへの課税を断念し、200%関税案は消えた。仏ワイン・スピリッツ業界は、将来20%の課税が発動されれば対米輸出が8億€後退し、大きな影響が出ると見る。香水、化粧品、革製品などの高級品部門を合わせると仏は45億€分を米に輸出しているが、例えばLVMHは米国に生産拠点を持っており、さらに生活必需品でないだけに値上げされても消費には大きな影響をもたらさないだろうと見られる。

しかし、チーズ業界は懸念を強めている。仏乳製品の2024年の対米輸出総額3億4200万€のうち3分の2を占めるチーズ(ブリー、エマンタールなど2.5万トン)は、ワイン・スピリッツの39億€に比べるとわずかだが、米市場は仏乳製品にとって10年間で2倍に伸びた将来性のある市場である。中国やアルジェリアの市場が縮小していることからも、危機感を募らせている。
さらに雇用への影響も懸念される。仏経営者団体MEDEFのマルタン会長は、相互関税が発動されるとコニャック地方で7万の雇用が削減される可能性を示したほか、ワイン・スピリッツ輸出協会も同業界の景気と雇用に大きな影響が出るだろうとみている。ある経済学者によると、高級品、航空宇宙産業などが関税回避のために米国での生産を拡大すれば仏国内の雇用減少につながるため、むしろ輸出先を多様化する方法が有効という。もちろんドイツのような景気後退への不安もぬぐえず、仏政府は10日、2025年の経済成長率を0.9%から0.7%に下方修正した。
EUは当初、4月15日から3段階に分けて210億€規模の報復関税を米国に課す意向だったが、米国が相互関税を90日間停止したことを受け、同じく90日間報復関税の措置を停止し、交渉に可能性を求める意向だ。マクロン大統領は米の相互関税停止は一時的なものであり、「EUは自衛のためにあらゆる方法を動員すべき」と述べているが、他の国々と同様にフランスも苦しい選択を迫られている。(し)
