アニメシリーズ『Samuel』は見ましたか?
今年3月にネット上で配信されるや人気沸騰。WebサイトとSNSを含めた動画再生の総計は、3ヶ月で3600万回を超えた。リアルな3Dアニメと対極を成すヘタウマ落書き風の絵が、フランス人の心をがっちりつかんだ。
「僕はサミュエル。10歳。悩みはあるけどあまり話したくない」。日記を広げて語り出すのは、パリ郊外在住の少年。彼のCM2(日本の小5だが最終学年)から6ème(中学1年生)の日々が、白地に黒線のモノクロ、シンプルだが伸び伸びとした線で描かれる。各エピソードは5分前後。見始めたらかっぱえびせんのように止まらなくなる全21本だ。
気になる女子や悪ガキ仲間、死んだ猫、潰(つぶ)れた蚊。教室やバカンス、課外授業……。背伸びをしたい盛りの10歳の日常が、気まぐれに軽やかに切り取られてゆく心地よさ。ディドル(ネズミの人気キャラクター)の便箋交換遊びや、バカンス先で売っているなぜかダサい絵葉書など、フランスあるあるの小道具も一興。とはいえ淡い恋心、初めて知る不条理や残酷さ、えも言われぬ切なさなど、思春期前夜のかけがえのない時間は万国共通。国境や世代を超え、みないつかの自分をサミュエルに見い出すだろう。
監督と脚本は現在28歳のエミリー・トロンシュ。本作の成功で一躍時の人に。1996年生まれの主人公は監督の子供時代の反映だ(記事の下にトロンシュのインタビュー)。
本作はアルテ局の公式サイトのほかYoutubeで無料で鑑賞可。TikTokやインスタグラムではさらに短い動画があり、これが若者を中心に拡散され話題となった。携帯で手軽に見られ、せっかちな現代人の感性にフィット。いつもは優等生的な文化放送局アルテの英断が光る、映像コンテンツの成功例なのだ。(瑞)