2020年、教員サミュエル・パティさんがイスラム過激思想の男に殺害された事件の裁判が、11月4日、パリの特別重罪院で始まった。パリ郊外イヴリーヌ県の中学で歴史を教えていたパティさんが授業中「言論・表現の自由」について風刺画を見せムハンマドを冒涜したとして、チェチェン人難民アブドゥラフ・アンゾロフ(当時18)は学校のすぐ近くでナイフでパティさんを滅多切りにし斬首した(犯人は事件後に警察に射殺された)。
今回裁かれるのは8人。問題の授業には欠席していたのに、ムハンマドの風刺画を見せる前にムスリムの生徒に教室を出るようパティさんが求めたと嘘をついた女生徒の父親と、イスラム原理主義活動家。この2人はパティさんがイスラムを冒涜したという動画をSNSで拡散した。犯人はその動画でパティさんのことを知ったため、この2人はテロ関与に問われている。さらに犯人の意図を理解しながら凶器購入に同行したとされる友人もテロ共犯罪で、SNS上で犯人と頻繁に通信していた人物ら4人もテロ関与で裁かれる。犯行当日、学校前で犯人から金をもらいパティさんを特定した中学生5人ならびに、嘘の情報を父親に告げた女生徒はすでに昨年12月に少年裁判所で裁かれ、執行猶予付禁固14ヵ月から実刑6ヵ月までの有罪判決を受けた。今回の公判では、中学校長が、被告ふたりが問題の授業の2日後に校長に面会を求めてやってきた後、学校に多数の脅迫メールや電話があり、警察、大学区長らに連絡し告訴した経緯なども証言、警戒感を強めていたなかでの事件であることが明らかになった。被害者であるパティさんとも生徒らとも直接面識のなかった犯人が、SNS上の憎悪情報をきっかけに残忍な犯行に及んだ事件。国民に大きな衝撃を与え、言論の自由のシンボルになったパティさんの事件の裁判の行方に注目したい。(し)