クレールは助産婦という仕事に身を捧げる超まじめ人間。ある日、ベアトリスという女性から「アントワーヌ・ブルトンを探している」という連絡が入る。その人物はクレールの亡父、ベアトリスは彼の愛人だった。彼女が彼を捨てて行方をくらませた直後に父は他界した。クレールにとって、ベアトリスは疎ましい過去の存在だ。
会いたいという彼女の申し出を「なぜ今更…?」と思いながらも渋々受け入れるクレール。亡父の元愛人は、脳腫瘍で余命長くないが身寄りがないのでクレールに看取って欲しいというようなことを言い出す。断れないクレール。こうして二人の対照的な女性の交際(?)が始まる。
本作『Sage Femme / 助産婦』の監督、マルタン・プロストはこの二人を”蟻とキリギリス”に喩える。クレールは脇目もふらずに仕事一筋の人生を送ってきた。一方のベアトリスは、行き当たりばったりの人生を楽しんできた(そのツケが今まわって来たのか?)。監督は、人は蟻さん的なところとキリギリス君的な両面をもった方が良いと言う。確かに、クレールとベアトリスは二人合わせて一丁前な感じのコンビだ。
この映画の最大の見どころは、ベアトリスを演じるカトリーヌ・ドヌーヴ様のロックンロールなお調子者振りだ。フランス映画の看板女優は加齢に比例して、どんどん解放されてゆく感じで好感度上昇中。そんな彼女を受けて立つクレール役のカトリーヌ・フロ(『偉大なるマルグリット』『大統領の料理人』等)は、現在フランス映画界で最も動員力のある、つまり最もギャラの高い女優様。そのクレールが郊外に持つ菜園の隣人でトラック運転手、彼女が何年か振りに抱かれることになる男性を演じるオリヴィエ・グルメの中年男の色気も特筆しておきたい。
『セラフィーヌの庭』『ヴィオレット-ある作家の肖像』を手がけた監督が贈る手堅い作品。(吉)