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創業は1864年。サンテティエンヌの伝統産業、リボン製造を代表する 「ジュリアン・フォール」社は、創業以来フォール家が経営。現社長のジュリアン氏は5代目で、創始者アンリ・フォール氏の玄孫 (やしゃご)にあたる。
サンテティエンヌのリボン作りは16世紀に始まったが、世界のリボン生産の中心地となるのは、複雑な紋様も織れるジャカード機が開発(1801)されてから。華やかなモードが開花した第二帝政期 (1852-70)に創業した同社は、「オートクチュールの父」シャルル・フレデリック・ウォルトらクチュリエたちにリボンを卸していた。百貨店ボン・マルシェを筆頭に、ブランドのネームタグなども製造。ドレス、帽子、小物などにリボンが多用された時代に、精緻な紋様もの、繊細なタフタ、なめらかな風合いのサテン、深い光沢のビロードなどのリボンで人々を魅了し、1898年からは輸出もスタート。
社内に絹部門を設けたり、教会の祭服や祭具装飾、家具用リボンなど、事業を広げながら発展を続けた。今日も大盛況のテキスタイル見本市 「プルミエール・ヴィジョン」は、同社とリヨンの絹織物会社14社が1974年に始めたものだ。高級リボン需要の低下、戦争、経済危機などの困難も、それぞれの時代に沿った商品を開発して乗り越えてきた。強度、手入れの簡易さなども考慮した時計のベルト、サスペンダーなども定番となっている。
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しかし160年以上会社を存続させ、2009年に無形文化財企業 (EPV)の認証を授与されたのには他にも理由がある。昔ながらのジャカード・シャトル織機を使い続け、さらにその高速版を自社で開発したことだ。従来より10倍、20倍という高速織機が開発されると、多くの同業社がシャトル織機を手放し、それを使っていた職人たちがリタイアすると同時にノウハウが失われてしまった。
ジュリアン・フォール社はシャトル織機ならではの、紋様が刺繍されているかのような膨らみ、コードを縫い付けたかのような立体的なリボンを織れるうえ、両端のヘリもきれいに仕上げられる。古い織機を買って修理し、使える職人がいることも強みだ。また、ジャカード織機で使うカルトン(紋様のデータを穴で記号化したパンチカード、紋紙)をデジタルデータに変換するソフトを開発したことにより、アーカイブに眠る紋紙をデータ化し、いにしえのリボンを再現することも可能になった。
サンテティエンヌの北15kmにある本社のアトリエでは、160年前に作られた織機から2023年の自社製織機まで、世代の異なる織機がリボンを織っている。800本、1200本もの糸が職人さんたちによって織機に整経され、緯糸(よこいと)と交差して華麗なリボンになってゆく。同社設立の150周年の2014年には、サンテティエンヌ産業芸術博物館で、ジュリアン・フォールが織り続けてきたリボンと、会社の歴史を紹介する展覧会が開催された。一片のリボンに、何代にもわたる努力と情熱、町の歴史までが織り込まれている。(六)
公式ウェブサイト : www.julien-faure.fr
instagram : @julienfaure1864
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