2007年大統領選挙の資金をリビアから違法に得たとしてサルコジ元大統領(69)ら13人を被告とする裁判が1月6日、パリ司法裁判所で始まった。この件は数々の裁判案件を抱えるサルコジ氏の最大のスキャンダルである上、3人の元大臣も裁かれるため注目されている。公判は4月10日まで。
この疑惑は2007年の大統領選挙の資金として当時のカダフィ政権から500万€、あるいは一説では5000万€ともいわれる選挙資金を得たというもので、2012年にネット新聞「メディアパルト」(有料)がリビア諜報部員のメモを暴露した記事で発覚し、パリ検察局が10年にわたる捜査の末に起訴に漕ぎつけた。
起訴状によると、サルコジ氏は内相だった2005年からリビアの最高指導者カダフィ大佐(2011年の内戦で死亡)との親密な関係づくりに腐心し、テロ事件への関与を疑われて禁輸などの制裁措置を受けていた大佐と同国の国際舞台への復帰を後押しする見返りとして、金銭供与や仏製兵器購入の便宜を受けたとされる。
被告はサルコジ氏のほか、仏側ではサルコジ内相の官房長でサルコジ当選後に大統領府事務総長を務めたゲアン氏、地方自治体担当相や内相を歴任したオルトフ氏、サルコジ氏の顧問ティエリー・ゴベール氏。彼らはリビア側との密談に参加し、オフショア口座に振り込みを受け取ったり、賄賂の現金を運んだりしたとされており、収賄、選挙資金法違反、リビア公金横領隠匿の罪状に問われる。
サルコジ政権で予算相を務めたヴルト氏は大統領選挙キャンペーンの会計係だったが、大量の現金の出所の違法性を知っていてその事実を隠蔽したとされる。仏=リビア間の仲介をとった仏レバノン国籍の実業家ジアド・タキエディン氏、仏・アルジェリア人実業家アレクサンドル・ジュリ氏は賄賂受け渡しや仏製ミサイル、エアバスなどのリビアへの売却に重要な役割を果たしたとされる。こうした実業家や弁護士など仲介役の被告は6人。
当初は関与を認めていたが後に否認してレバノンに逃げたタキエディン氏をはじめ、サウジアラビア人実業家、死亡したとされるマレーシア人弁護士ら4人は裁判には不在だ。それにカダフィ政権の元側近、エアバス元幹部を加えて計13人となる。
ヴルト氏を除いて禁固10年の刑を言い渡される可能性がある全被告は、賄賂や違法な選挙資金の存在を否認している。検察側も認めているように、収賄の事実についても賄賂額についても多くの証言や状況証拠はあるが、完全な証拠は少ないことが裁判の焦点になりそうだ。
サルコジ氏に関しては別件(モナコのポストを餌に破棄院判事から捜査中のベタンクール疑惑についての情報を聞き出そうとした件)でも、破棄院が12月18日にサルコジ氏の上訴をしりぞけ2審での禁固3年(うち執行猶予2年)の刑が確定したばかり。実質禁固1年となるため、サルコジ氏は近いうちに電子ブレスレットを装着されることになる。元大統領が刑事事件で有罪となったのは異例だが、今回の裁判もカダフィ独裁政権への元フランス大統領と閣僚の加担と癒着という重大な事件であり、裁判の行方に注目が集まっている。この事件を暴露し、調査報道を続けてきたメディアパルトが製作した、ヤニック・ケルゴ監督のドキュメンタリー映画『Personne n’y comprend rien (だれも何もわからない)』が、裁判開始直後の12月8日には全国で封切になるのも話題をよんでいる。(し)