12月3、4日、右派共和党の公認大統領選挙候補を選ぶ党員投票(約11万4千人が投票)が実施され、イル・ド・フランス地域圏議会議長のヴァレリー・ペクレス氏が伝統的右派政党初の女性候補となった。
第1回投票ではエリック・シオティ国民議会議員がトップで25.59%、ペクレス氏25%、バルニエ前EU委員23.92%、ベルトラン元労働相22.36%となり、シオティ、ペクレス両氏が決戦投票に進んだ。他の3氏の支持を得たペクレス氏が60.95%の得票率で公認候補に決まった。ベルトラン氏が3月に独自に大統領選出馬を表明して以来、紆余曲折の末にやっと予備投票が実施されたが、公認候補決定の際は、全候補がペクレス氏を支援する結集を示した。
しかし、第1回投票で党内最右翼のシオティ氏が1位になったことから、党員の右傾化が見られると仏紙は分析する。同氏は“仏版グアンタナモ”設置、イスラムのスカーフを被った女性の公共サービスからの排除などを唱え、5日には新派閥「A droite !」を立ち上げた上、自分の政策を反映するようペクレス氏に求めた。シオティ支持票を確保しなければならないペクレス氏には今後大きな圧力がかかりそうだ。
一方、出馬表明せずに4月から選挙運動を始めていたエリック・ゼムール氏は、11月30日になって立候補を公にした。ジャーナリスト・作家の同氏は、2005年頃からテレビに頻繁に登場し政治評論家として大衆人気を得た。テレビでの人種差別的発言で2度有罪判決を受けており、アラブ人が仏国民の大半を占めるようになるという「Grand remplacement (大置換)」陰謀説を根拠に反移民を唱える。同性婚や男女同権に反対しつつ、「伝統的価値を失ったフランス」を嘆き、かつての「偉大なるフランス」を復活させるという反動思想の持主で、トランプ、ジョンソンのポピュリズムに通じるものがある。
同氏の主張をたれ流しにするメディアの影響のためか、 世論調査ではマクロン(25%)、ルペン、ペクレス(各16%)に次ぐかなりのスコアを維持(14%)。ただし、出馬に必要な500人の国会・地方議員の推薦という面では、出馬の実現性に疑問が残る。
ゼムール氏の5日の初集会では、人種差別反対スローガンのTシャツを着た人たちに同氏支持者が暴行を働き、同氏自身も暴行を受けて軽傷を負うという事態となった。現政権への不信感、かつて安定した2大勢力だった共和党と社会党の凋落、それに勢いを得た極右ポピュリズムの台頭、と今後の選挙戦の展開には不穏な影が漂っている。(し)