
オルレアンに引っ越した知り合いが、「いい街だから、遊びに来たら」と声をかけてくれた。パリから南西に130km。電車で1時間とすこし。オルレアンの駅から商店が並ぶ大通りをまっすぐ歩き、マルトロワ広場でこの町の英雄ジャンヌ・ダルクの騎馬像を拝んだら、旧市街を通ってロワール川のほとりへ。
ポプラ並木に縁取られたロワール沿いの遊歩道では、犬と散歩をする人や、ジョギングの人たちとすれ違う。朝市には、形はふぞろいでも風味がギュッと詰まっていそうな野菜や果物が並ぶ。釣り糸をたらすおじさんが、獲った魚を見なさいとケースのフタを開けると、手のひらほどの魚が何匹も体をよじらせて地面に跳び出た。
フランスで最も長いロワール川は中央山塊に水源をもつ。オルレアンまで北上し、サン・ナゼールで大西洋に注ぐ全長1000kmの川。今日のおだやかな様子からは想像しがたいが、かつてオルレアンは重要な商業河川港だった。大西洋から上ってくる船、下る船、17世紀末に完成したオルレアン運河を通ってパリへ向かう船などで、最盛期は今の高速道路のように混雑していたのだという。
ロワールの自然とともに生き、ロワールとともに繁栄したオルレアン。夏にはガンゲットが多数立ち並び、人々が歌い、踊り、憩いのときを楽しむ。9月にはロワール川のお祭もあるという。また行きたくなってきた。(六)
取材協力 : Mika NIITSU (Coucou Orléans)
Chiho ICHIKAWA (C DESIGN)





オルレアンは、屈指の河川港だった。

1692年、オルレアン運河が開通してロワール川とセーヌ川が結ばれると、オルレアン港からパリへのアクセスがスムーズになり、オルレアン港の重要性が増した。ワイン、絹、スレート、魚類、南仏のオリーブオイル、中央山塊の鉄のほか、全国からさまざまな物資が運ばれてきたオルレアンは、パリに近いことから 「王国の貯蔵庫」と呼ばれるようになった。植民地から砂糖がもたらされるようになるとオルレアンには精糖工場が多く造られ、付随する樽、陶器、包装紙などの製造業も興った。
18世紀、繁栄を背景にナント、トゥール、アンボワーズなどロワール川沿いの都市ではインフラの近代化が進められる。オルレアンでも町の要塞の一部を壊し、現在の立派なジョルジュ・サンク橋が造られた。その橋から、町の中心マルトロワ広場へと伸びるRue Royaleの道幅が広げられ、ルクーヴランス波止場が整備されると、陸路も水路もさらに便がよくなった。

1829年 石版画 シャルル・パンセ – Musée des Beaux-Arts d’Orléans
ところが1843年、パリ=オルレアン間の鉄道が開通したのを機に水路は使われなくなっていく。〈パリの港〉だったオルレアンはその座をセーヌ川の河川港ルーアンに奪われ、港はすたれていった。オルレアンの人々はこの頃、ロワールに背を向けたらしい。とはいえ今は仲直りしているようだ。
全長1000kmのロワール川のうち、オルレアン近くのシュリー・シュル・ロワールからシャロンヌまで280kmのエリアはユネスコの世界文化遺産 〈文化的景観〉として登録されている。2000年にわたって流れを制御して氾濫を防ぎ、航行を可能にし、流域ではワイン醸造や農業を行ってきた。シャンボール、シュノンソー、アンボワーズ、ブロワほか多数の城が築かれ庭園が造られた。川と人間が共生しながら、作り上げてきたこの町の大いなる遺産だ。


パリからオルレアンに移住したN家は、すっかり自転車派に。ロワール川沿いサイクリングをすすめてくれた。Les Vélos Verts ならオルレアン駅前で自転車を借りられ、ブロワ、アンボワーズ、トゥール、ソーミュール、ナントなどで返却可。荷物を宿まで届けてくれるサービスも(有料)。(18€/日〜)、電動 (38€/日〜)。
www.lesvelosverts.com


ガンゲット 「La paillote」すぐ。Quai de Prague 45100 Orléans
ロワール川祭 – Festival de Loire
9月24日(水)〜28日(日)

2年に1度のロワール川の祭には、200艘の舟と700人ほどの船頭さんたちがヨーロッパ各地から川や運河を通ってオルレアンにやってくる。この港が欧州一と言われるほど盛況だった頃のように、川をたくさんの船が行き交う。舟のパレード、花火、コンサート、一般の人を舟に乗せてくれたりもするそう。ロワール川や運河独特の運搬船(Gabare, toue, chaloupe, fûtreau…)が登場するというから楽しみだ。魚の燻製のような、ロワール沿いならではのフードスタンドも出るそうだ。
www.orleans.fr/festival-de-loire/

ロワール河岸をサイクリング!
Les Vélos Verts

ワインビネガーとマスタードはオルレアン名物。

ワインが多く流通したオルレアンでは、運搬中に劣化したワインや、アルコール度が一定以下のワインでビネガーを作るようになった。同業者組合が組織されたのも1394年と早い。最盛期は製造所が400軒あったという、オルレアンは酢の都。その酢をつかったマスタードも名物だ。今もMartin-Pouret社が、古くからオルレアンに伝わる樽発酵と熟成の醸造を継承して販売している。中心街にはブティック、郊外の工場は見学可能。

Martin Pouret -Boutique :
11 rue Jeanne d’Arc 45000 Orléans
Tél : 02.3862.1964
日月休。火〜土:9h-19h
https://martin-pouret.com
全部見たい!オルレアンのミュージアム。
オルレアン市立の美術・博物館は、一回チケットを買えば見放題!という、うれしいシステム。
すべて徒歩圏内ですが、どこから見るか迷うところです。

FRAC Centre-Val de Loire(※ 共通チケットは使えません)
88 rue du Colombier 45000 Orléans
www.frac-centre.fr Tél : 02.3862.5200
4€/2€。水〜日 14h-19h (第一木曜日は20hまで)
★ 以下の4つのミュージアムは、同日なら共通チケット( 8€/4€)で見放題!
https://museesorleans.fr
(季節により閉館時間などが異なることがあるのでご確認ください)
◉Maison de Jeanne d’Arc (Centre Jeanne d’Arc)(※ 共通チケット有効)
ジャンヌ・ダルクの家 (資料館)
3 place du Général de Gaulle 45000 Orléans
Tél 02.3868.3263
月休、火〜日:10h-13h/14h-18h(9月いっぱい)
◉Hôtel Cabu – Musée d’Histoire et d’Archéologie (※ 共通チケット有効)
カビュ館ー歴史と考古学博物館
Square Abbé Desnoyers 45000 Orléans
Tél : 02.3879. 2560
火〜日: 10h-13h / 14h-18h
◉Musée des Beaux-Arts d’Orléans (※ 共通チケット有効)
オルレアン美術館
Place Sainte-Croix 45000 Orléans
Tél:02.3879.2183
火〜土: 10h-18h、日:13h-18h

◉MOBE – Muséum d’Orléans pour la Biodiversité (※ 共通チケット有効)
et l’Environnement 生物多様性と環境ミュージアム
6 rue Marcel Proust 45000 Orléans
Tél:02.3584.6105
毎日9h30-19h
この町に生きるジャンヌ伝説。

英仏百年戦争(1339~1453年)の末期、イングランド軍に包囲されていたオルレアンを解放し、シャルル7世を戴冠式へと導いたジャンヌダルク。漢書は敵に捕えられ火刑に処されるという劇的な最期を遂げた。この町では随所でジャンヌの足跡に出会うが、ジョルジュ・サンク橋を渡った対岸には「1429年5月7日、ジャンヌ・ダルクはこの岸辺から攻撃を始めた」というプレートがあり、伝説の人を、実在の騎士として実感することができた。



▲ ジャンヌ・ダルクが1429年に10日間過ごした家。戦争で燃えた後、復元され、今は 資料館。
ロワールのワインとおいしいお料理。


エリゼ宮の厨房でも働いた経験もあるマリー・グリクールさん (左)をシェフに、明るく元気なチーム。独創性に飛んだ繊細なお料理でランチは3皿28€。2皿22€。
◉Restaurant Gric
8-10 rue des Halles – 45000 Orléans
Tél. 02 38 53 16 45 – contact@restaurantgric.fr
オルレアンへのパリからの行き方。
パリ・オーステルリッツ駅から電車で1時間半前後。
現在は工事中で本数が少なくなっています。
長距離バスはパリから2時間前後。5.99€〜。
