『N’attendez pas trop de la fin du monde』
俳優のランベール・ウィルソンが審査員長を務めたロカルノ映画祭で、審査員特別賞を受賞したのがルーマニアの異端児ラドゥ・ジューデ。その新作の名は『この世の終わりにそんなに期待しないで下さい(原題)』。人を食ったようなタイトルだが、ジューデ監督は絶望色した現代社会と、いつだってガチンコ勝負だ。知的で過激でグロテスクだが、映画としてもしっかり面白い。
朝5時台に唸りながらベッドから起きるのは、映画制作助手のアンジェラ(イリンカ・マノラケ)。眠い目をこすってブカレストの街を車で走る。担当するのは多国籍企業主導の労働者の安全に関する広告映像。だが、睡眠不足のアンジェラ本人が今にも労災事故を起こしそう。彼女は激務の合間にスマホで動画投稿。髭ズラ坊主男のアバターから、マッチョで過激な言葉を発信する。
ベルリンの金熊賞を獲った前作『アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ』同様、ジューデが描く女性像はきれいごとゼロ。アンジェラはゲップもするし、言葉遣いも悪く、洋服もなんだか挑発的。しかし知的で勇敢で逞しく、不条理社会をサバイブする彼女を応援したくなる。
アンジェラの物語はモノクロで始まるが、唐突にフィルム撮影の映像が挿入される。男尊女卑が強い80年代にタクシー運転手として働く女性の物語らしい。これが奇妙な鏡的効果を作品にもたらす。このように全編斬新な仕掛けに満ちており、最後まで驚かされっぱなしの163分。禁じ手に見えるスローモーションや超長回し、無音シーンの数々もそれぞれ意味がある。映画のテーマは深刻だが、つまらぬ遠慮や恐れとは無縁、何事も徹底的で手を緩めることのない監督の演出は爽快だ。(瑞)