
創設四百年を迎えた、パリ自然史博物館。
パリ自然史博物館は今年、創立400周年を迎えた。国王ルイ13世が薬草園を創設する勅令を出したのが1626年1月6日。造園期間を経て1640年、国王の筆頭主治医ジャン・エロアールを園長とする「王立薬草園」がオープンした。2千種ほどの植物が植えられた薬草園は、学びの場、また、散歩の場として一般市民にも門戸が開かれ、医師と薬剤師を養成するための植物学、化学、解剖学の講座が設けられた。唯一の医師養成機関として権威を保ちたかったソルボンヌ大学の聖職者の教授たちは闘争心を抱いたそうだが、薬草園ではラテン語ではなくフランス語で、無料で授業を受けられるとあって人気を博したという。


開園したとき、今の4分の1ほどの面積だった薬草園は1739年、32歳のジョルジュ=ルイ・ルクレール・ド・ビュフォンを園長に迎えてから倍以上に拡張される。収集された新しいものや動物をじっくりと観察し、描き、分類する博物学の基盤を作り、薬草園を〈欧州をリードする自然科学の殿堂〉へと発展させた。ビュフォンが『博物誌』を刊行しはじめた2年後にはディドロとダランベールの『百科全書』の出版がはじまった。時代は知識熱に浮かされていたようだ。

フランス革命後、薬草園は「国立自然史博物館」となって再出発する。動物園、大温室、博物館などが造られ今の形に近づく。今日も植物園で子どもたちが遊び、最先端の研究者たちとすれ違う。知を共有する場であることは400年前も今も変わらない。(集)
自然史博物館探索。

Culture des plantes médicinales à Paris (1636) © MNHN
創設400年を機に、地図を片手に自然史博物館を探索することにした。が、そもそも自然史博物館(MNHN)とは何なのか…。植物園敷地内にあるいくつものギャラリーとよばれる博物館、動物園、温室、図書館など一般に開かれた場所と、研究機関、大学など全体がMNHNとよばれる。
さらに、MNHNは、フランス国内にある自然博物館のネットワークでもある。パリ市内では人類博物館、パリ動物園(ヴァンセンヌの森)、ヴェルサイユ樹木園、南仏アヴィニョン近くの昆虫学者ファーブルの研究室と家と庭、ブルターニュにもカキや魚の養殖研究のために設置された世界最古の海洋生物研究所・博物館 「マリナリウム」がある。クロマニョン人が1868年に初めて発見された南西地方ドルドーニュ県のパトー岩陰遺跡、ジェルス県のサンサン遺跡なども含まれる。
植物園やギャラリーを歩きながら説明のパネルを読んでいると、一本の木、石、建物、剥製のひとつひとつに、歴史と、それらのものを知ろうとする人たちの情熱と物語があった。おもしろいことが多くて書ききれないのが残念だが、いくつか選んでみた。
① 大進化ギャラリー
Grande Galerie de l’Évolution

始まりは1635年、国王の収蔵庫に集められた 「自然界のめずらしいものコレクション」。その後コレクションは膨れ上がり、一時は300万点を超える標本が展示されたという。今日の博物館は1994年ポール・シュメトフにより改修、再オープンされたもの。7000点ほどの高精度な剥製や標本は生き生きとしており、4階にわたって生き物の進化の過程を教えてくれる。海洋生物、陸上動物、人類の誕生とその影響、自然保護へと続き、多角的に自然史を学び、考えさせられる構成となっている。2階のアフリカゾウを先頭に進むサバンナの動物たちの一群は圧巻だ。また、「絶滅危惧種と絶滅種の展示室」にある剥製の技術と知恵を駆使して作られた2体のドードーの標本は見応え抜群だ。3月15日まで、地下の展示スペースで「Deserts (砂漠)」展、開催中!
アクセス:36 rue Geoffroy Saint-Hilaire, 75005 Paris
開館時間:火休。10h-18h。
入場料:10€/16€
② 古生物と比較解剖ギャラリー
Galerie de Paléontologie et d’Anatomie comparée

1898年開館。恐竜、哺乳類、無脊椎動物の化石、地球上の植物標本などが自然界の歴史の変遷をたどれるように展示されている。全長80メートルの大ホールにならぶ約4300種もの骨格標本が来館者を迎える。大窓から差し込む自然光に照らされた数々の大型骨格標本たちの光景は実に壮観だ。なかでも、1768年に絶滅したステラーカイギュウや1961年に絶滅したフクロオオカミ、シーラカンス、ルイ14世の象、ルイ15世のサイなどは見逃せない。続く古生物学フロアには316体の完全な骨格をふくむ、実に2000点以上の化石が展示されている。さらにバルコニーにも5000点以上の化石が並ぶ。(2027年まで閉館中)。
アクセス:2 rue Buffon, 75005 Paris(メトロ駅はGare d’Austerliz)
開館時間:現在閉館中。通常は火休。10h-17h。
入場料:9€/12€
③ 鉱物と地質学のギャラリー
Galerie de Géologie et de Minéralogie

国王の薬庫には薬効があるとされた鉱物が収蔵されており、18世紀以降、それらは収集・研究の対象となると同時に、展示もされるようになった。貴重な岩石や鉱物、結晶、宝石、隕石が多数ならぶが、収蔵品もあわせると13万点におよぶ世界最大級のコレクション。なかでも20数点におよぶ巨大な結晶が集められた空間は一際目を引く存在だ。これほどの大きさに至るまでに費やされた、何百万年、あるいは何千年という時の流れに思いを馳せずにはいられない。
あいにく昨夏、自然史博物館はサイバー攻撃にあい、秋にはこの建物から金塊が5つ盗まれた。犯人はお縄となったものの、歴史と科学的価値のある金塊の一部が溶かされてしまった!

アクセス:36 rue Geoffroy Saint-Hilaire 75005 Paris
開館時間:火休。10h-17h。
入場料:7€/9€


400周年特別展は〈自然史博物館のアーティストたち〉
国立自然史博物館 (MNHN)中央図書館館長で、400周年特別展のキュレーターでもあるアリス・ルメールさんに話を聞いた。

400周年の特別展はどのようなものですか?
「秋に始まる400周年の展覧会のテーマは 。図書館の所蔵品を通して、観察し描くという行為自体が自然史の 〈知〉を築いてきたことに光をあてる展覧会です。MNHNには自然科学を専門とする画家も常駐してきましたが、フランス革命後、研究者のためのデッサン講座が設けられました。最も有名なのがピエール=ジョゼフ・ルドゥテです。植物画家として広く活躍する一方、MNHNで絵を教えました。科学画家のほかにもドラクロア、ドゥアニエ・ルソー、動物の彫刻で有名なフランソワ・ポンポンらもインスピレーションを得るため、MNHNに通いました。そういった作品も展示します」。
MNHN図書館の今日の役割は?
「400年前から、研究者や学生に資料を提供しつつ、彼らの研究成果を発表するという双方向の働きをしています。そうした研究成果の蓄積で図書館は豊かになってきました。今も収集、研究、知識の普及の役割を担っていますが、17世紀と異なるのは収集の緊急性。多くの種が絶滅の危機に瀕し、時間との競争になっているからです。そういった背景から今日では、気候や生物多様性に関して状況を評価、分析し、政府や国際機関などへの提言も行うようになりました」。

春には昆虫観察のアトリエ、また、MNHNの歴史や自然科学者たちについて知る機会がありそうだ。植物園では、王妃マリー=アントワネットや皇妃ウジェニーのために花の絵を描いた 「花のラファエロ」こと前出ルドゥテ、ニコラ・ロベールらの作品を思わせる花壇が楽しめ、夏には料理や植物療法に使われる植物が見られるというから、そちらも乞うご期待。
Bibliothèques du Jardin des Plantes
アクセス:36 rue Geoffroy Saint-Hilaire 75005 Paris(アクセスは植物園からではなく、通り側の入口)
上の地図上の①と⑤の中間あたり。
開館時間:日・祭日休館。月水木金:9h-19h。火 : 13h-19h。土 : 10h-19h。
入場料:一般でも一階の図書室は利用可能。予約不要。無料。
▶︎ Cabinet de curiosités du Baron Joseph Bonnier de La Mosson
ジョゼフ・ボニエ・ド・ラ・モソン男爵はパリのアパルトマンを改造しキャビネ・ド・キュリオジテ(珍奇陳列室)を作った。1フロア全体を使って剥製、物理学や解剖の道具、天文時計、鉱物などを並べた陳列室は欧州他国からも見学に来るほど有名に。男爵が早死にし、1745年、家具と蒐集品が競売に出たのを一部 、陳列棚ごと買ったのがビュフォンだった。中央図書室の1階(RdC)、一般が利用できる閲覧室でみられる。

Muséum national d’Histoire naturelle
Adresse : 57 rue Cuvier (入口は多数), 75005 Paris , Franceアクセス : 入口によりさまざまな可能性あり。
URL : https://www.mnhn.fr/fr
植物園は冬は08h-17h15。夏は-19h45。入場無料。
