Maison Dissidiの高級家具

(左)クラシックなひじ掛け椅子。椅子の背もたれの詰め物は馬の毛が最適で、100年はもつのだそう。
(右)クラシックでエレガントな腰掛け。

 フランスの高級伝統家具は博物館や歴史的建造物でよく目にするが、裕福な家庭のサロンや高級ホテルなどでも複製品を見かけるように、そのスタイルは現在も引き継がれているようだ。ルイ14世、15世様式やアールデコ様式の食器棚、タンス、テーブル、椅子などは、一般のフランス人にもある種のノスタルジーと憧憬をかきたてるのだろう。

 家具作りといえば、パリではバスティーユ広場から東に伸びるフォブール・サンタントワーヌ通り界隈が昔から有名だ。ルイ11世の命で15世紀にこの地に木工産業が発展し、アンドレ=シャルル・ブール、ジョルジュ・ジャコブといったエベニスト(高級家具師) の作品は17〜18世紀には欧州全土に知れ渡っていたという。以前は家具屋が軒を並べていたこの通りは、今では服飾店が増えて様変わりした感があるが、通りから南北に入る小さな通りには、今でも家具製造のアトリエが残っている。

 そうした小さな通りにあるアトリエの一つが、無形文化財企業(EPV)のメゾン・ディシディだ。重厚な木製のファサードは、1900年頃に創業した3代続く老舗の威厳を感じさせる。2階のショールームには実に様々な種類のルイ13世〜16世様式やアールデコ調の家具や、コンテンポラリー家具が並んでいる。アトリエは1階と地下にあり、私が訪問したときは2人のエベニストが木にやすりをかけていた。同社はクラシック家具の複製品が4割、コンテンポラリー家具が6割だが、強みは前者にあるように思う。100%注文製作で、顧客は省庁や博物館などの家具を管理する国有動産管理局(Mobilier national)、高級ホテル、インテリアデザイナーや個人客だ。韓国のティーサロン、日本のラデュレの内装といった海外からの注文もある。最近、改装オープンしたオテル・ド・クリヨンのレセプションデスクも手がけた。オペラ・ガルニエの客席椅子は、元々は親会社のアンリヨ社(Henryot)が製作したものだが、ディシディ社が10年前から少しずつ新しいものに入れ替えている。

 地下のアトリエには様々な木材がストックされている。ほとんどは仏中央部産のオークやヴォージュ地方産のヨーロッパブナ(とくに椅子用)が使われるが、黒檀などの高級木材は南米などから輸入される。木は「動く」ので安定させるために1年間は寝かせておくのだそうだ。クラシックな高級家具は、木材を切って加工して組み立てるエベニストだけでなく、ニスを塗る職人vernisseur、金箔を張る職人doreur、寄木細工や模様を彫り込む人marqueteur、ブロンズの飾りを作る人bronzier d’artなど様々な専門職人の仕事が必要(外注)とされ、大変な手間がかかる。

 同社には平均年齢25歳のエベニストが8人いるが、幸いにも近くにブールやラ・ボンヌ・グレンヌといった由緒ある家具製作学校があり、年2人の研修生を受け入れている。フランスでは若い人の間でもけっこう人気のある職業だというから、伝統的木工家具のノウハウは今後も受け継がれていくのだろう。(し)