『ダゲレオタイプの女』〜亡き人の想いを封じ込める〜

Le Secret de la chambre noire 『ダゲレオタイプの女』

枯れた風情のパリ近郊。撮影アシスタントの面接に臨むジャン(タハール・ラヒム)は、謎めく邸宅に吸い込まれてゆく。待ち受けるのは写真家のステファン(オリヴィエ・グルメ)。世界最古の写真撮影法「ダゲレオタイプ」に偏狭的な情熱を傾ける男だ。露光時間がかかるため、モデルの愛娘マリ(コンスタンス・ルソー)を拘束器具で固定し、過酷な撮影を強いている。マリは父の従順なモデルだが、ジャンと出会い、囚われの身から逃れようともがく。

ようやくフランス公開となった黒沢清監督最新作。スタッフも役者も主にフランス人、全編フランス語のおフランス映画。だがどこから見てもJホラーの巨匠・黒沢作品で、エッフェル塔でさえ不安気な佇まい。通りも建物も、木々さえもよそよそしく見える。

一般に写真は過去を閉じ込め、映画は永遠に今を繰り返すメディア。だが本作は、この世に留まる「亡き人の想い」というつかみ難い過去まで、映像にして封じ込めた。人間(あるいは、それらしきもの)の質感も面白い。冒頭からジャンはただならぬ人影に静かに息を呑む。こんな極上の描写ひとつで、歌舞伎の大向こうよろしく、「よっ、黒沢屋!」とスクリーンに向かって声がけしたくなる。マリは生と死の境界をすり抜ける存在だが、彼女の質感には終始ゾクゾクさせられっぱなしだ。ジャンルで言えばホラー映画。だがこんなに美しいホラーは滅多にお目にかかれない。女は愛に生きる一途さを持つが、男は弱く、欲と策に溺れ身を滅ぼす。何という悲しいすれ違い。ホラーとはいえ、純度の高い悲恋ドラマの味わいが胸に残った。(吉)の署名でオヴニーの映画評も手がける吉武美知子氏渾身のプロデュース作品。3月8日公開。(瑞)


 

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