今年のアヴィニョン演劇祭の開幕作品はロシア人キリル・セレブレンニコフ演出の『Le Moine Noir 黒衣の僧』。現在この話題作がアルテのサイトで鑑賞可能だ。原作はロシアでは有名だが、フランスではほぼ知られてないチェーホフの短編。
セレブレンニコフは数ヵ月前にドイツで初演を実現。今回は教皇庁宮殿中庭での公演だが、巨大なステージに合わせ演出も大幅に変更されたため、新たな演出と呼んでもよいものだ。 精神的に不安定状態にある好学の士コーヴリンが主人公。友人親子の招きで田舎に療養に向かうが、そこで黒衣の僧の幻想と出会うドラマ。鬼才演出家だけに、原作をなぞる演出で満足はしない。複数の俳優がコーヴリンを演じたり、年齢に幅のある二人の俳優が主人公の結婚相手を同時に演じる。
また、映画監督としても名高い彼は、映画と演劇双方の手法を自在に操る。映画の時は人一倍「長回し」にこだわり、流れを止めない舞台的な演出を好むが、今回はスマホ撮影の映像を挿入するなど、積極的に映画的な仕掛けを演劇に持ち込んだ。
加速するコーヴリンの狂気とともに増殖するような黒衣の僧の舞いは圧巻。星空のもと歴史ある教皇庁で野外演劇を鑑賞する体験そのものが、幻想的なドラマを盛り立てる。残念だったのは、客席によっては字幕が高い位置にあり過ぎたこと。ただし、アルテで鑑賞する時は字幕問題は解決しているから、ある意味特等席だろう。本作は2023年3月にはパリのシャトレ劇場でも上演**予定。(瑞)
*www.arte.tv/fr/videos/108965-001-A/le-moine-noir/
チケット発売中**www.chatelet.com/programmation/saison-2022-2023/
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