18回目を迎え、人間だったら成人年齢。11月23日からいよいよ始まるフランス最大の日本映画の祭典・KINOTAYO映画祭のことだ。今年は約3週間にわたって開催。成熟期を迎えた映画祭は評判のドキュメンタリーやフィクション、アニメを詰め合わせ、多彩なプログラムで彩れる。
メイン会場は長年の本拠地MCJPことパリ日本文化会館。そして今年は昨年に引き続き、国立ギメ東洋美術館も上映会場に加わる。欧州を代表するアジア専門のミュゼなので、上映の合間に豊かな美術コレクションも楽しんではいかがだろう。
オープニング・セレモニーを飾るのは、ヴェネチア映画祭で好評を博した空音央監督『HAPPYEND』。近未来の日本を舞台に、監視社会が進む日本を若者目線で描く意欲作だ。今年は本作を筆頭に、コンペティション作品の藤田直哉監督『瞼の転校生』、入江悠監督『あんのこと』、コンペティション外作品となる立川譲監督のアニメ作品『BLUEGIANT』など、日本の若者を描いた秀作にも注目だ。
柱となるコンペティション部門は、制作から18ヵ月未満の約200作品の中から選出された7本を紹介。森達也監督の『福田村事件』は、関東大震災直後にデマから引き起こされた実際の虐殺事件をモチーフとする問題作である。自主制作として出発しながら、多くの映画賞を獲得し、話題を呼んだ昨年度の日本映画を代表する一本となった。
今や若手俳優No1と言える河合優実を主演に据えた入江監督の『あんのこと』は、虐待を受け育ち、荒んだ生活を送る若い女性と刑事との交流を描く人間ドラマだ。ちょうどフランスでは、同じく“令和の百恵ちゃん”こと河合優実が出演し、カンヌで激賞された山中瑶子監督『ナミビアの砂漠』が劇場公開中なので、合わせて鑑賞することをお勧めしたい。
他にも、精霊が息づく山に開発業者が触手を伸ばす石橋義正監督のエコ・スリラー『唄う六人の女』(石橋義正)、「蒸発大国」と称される日本の実像に迫ったドキュメンタリー『蒸発』(アンドレアス・ハルトマン/ 森あらた)などがある。現代日本の世相が色濃く反映させながら、同時に、世界共通の社会問題が浮き上がるような作品が多く、映画作品を通して日仏の文化的対話の継続を意識してきたKinotayo映画祭らしい選択と言えよう。
今年の大きな話題は「役所広司特集」だ。2023年にヴィム‧ヴェンダース監督の『PERFECT DAYS』でカンヌ国際映画祭最優秀男優賞を獲得し、役者として新たな黄金期を迎える名優が、いよいよKinotayoにやって来る。今回は役所の代表作とも言える5作品(『Shall We ダンス?』『孤狼の血』『うなぎ』『Perfect Days』『CURE』)を特集上映し、あらためて活躍を讃える機会とする。なお、コンペでは役所の主演作である曽利文彦監督最新作の『八犬伝』が、クロージング・セレモニーでは、声優として参加した八鍬新之介監督『窓ぎわのトットちゃん』が上映される。
12月13日には、長年フランスの演劇と映画界で特殊メーキャップを担当した日本人アーティスト、レイコ・クルック⻄岡による朗読劇の上映が催される。長崎県諫早平野で幼少期を過ごした自身の戦争体験をベースとした小説『赤とんぼ1945年、桂子の日記』から本人が朗読し、オーケストラ演奏が花を添えるという。朗読劇の上映はKinotayoとしても珍しい試みに。実は役所広司は長崎県諫早市出身で、レイコ・クルック⻄岡とは旧知の仲。当日は応援に駆けつける予定となっている。
さらにコンペティション外作品としては、昨年逝去した坂本龍一関連の作品も2本登場する。オープニング作品『HAPPYEND』の監督で、実の息子である空音央監督が、坂本龍一最後のピアノ・パフォーマンスを映像に収めた『RYUICHI SAKAMOTO | OPUS(原題)』と、80年代の東京で、若き日の坂本の言葉をアメリカ人女性写真家が引き出したドキュメンタリー『トーキョー・メロディー』である。ともに、唯一無二の存在感で各方面に多大な影響を与えた日本人音楽家の貴重な記録となっている。(瑞)
第18回キノタヨ現代日本映画祭
2024年11月23日~12月14日
https://kinotayo.fr
★予約はこちらのページから。
【上映日程 ・会場】
パリ日本文化会館(地図)
Adresse : 101 bis quai Jacques Chirac 75015 Paris
アクセス : M°Bir-Hakeim
ギメ東洋美術館(地図)
Adresse : 6 place d’Iéna 75016 Paris
アクセス : M°Iena
【上映スケジュール】
★=ゲスト来場
◆ 11月
11/23(土)
19:00 パリ日本文化会館『HAPPYEND』空音央監督(オープニング作品)
11/26(火)
16:00 パリ日本文化会館『SUPER HAPPY FOREVER』五十嵐耕平監督
19:30 パリ日本文化会館『唄う六人の女』石橋義正監督★=ゲスト来場
11/27(水)
16:00 パリ日本文化会館『人間蒸発』今村昌平監督
19:30 パリ日本文化会館『八犬伝』曽利文彦 監督
11/28(木)
16:00 パリ日本文化会館『唄う六人の女』 石橋義正監督 ★=ゲスト来場
19:30 パリ日本文化会館『蒸発』アンドレアス‧ハルトマン監督∕森あらた監督 ★=ゲスト来場
11/29(金)
17:00 パリ日本文化会館『白鍵と黒鍵の間に』冨永昌敬監督
19:30 パリ日本文化会館『あんのこと』入江悠監督 ★=ゲスト来場
11/30(土)
14:00 パリ日本文化会館『Ryuichi Sakamoto | Opus(原題)』空音央 監督
16:30 パリ日本文化会館『トーキョー・メロディー』エリザベス‧レナード 監督 ★=ゲスト来場
19:30 パリ日本文化会館『福田村事件』森達也監督 ★=ゲスト来場
◆ 12月
12/01(日)
18:45 国立ギメ東洋美術館『福田村事件』森達也監督 ★=ゲスト来場
12/02(月)
16:00 国立ギメ東洋美術館『八犬伝』曽利文彦監督
19:30 国立ギメ東洋美術館『あんのこと』入江悠監督 ★=ゲスト来場
12/04(水)
16:00 国立ギメ東洋美術館『BLUE GIANT』立川譲監督
19:30 国立ギメ東洋美術館『白鍵と黒鍵の間に』冨永昌敬監督
12/05(木)
16:00 国立ギメ東洋美術館『瞼の転校生』 藤田直哉監督
19:30 国立ギメ東洋美術館『蒸発』アンドレアス‧ハルトマン監督 ∕ 森あらた監督 ★=ゲスト来場
12/10(火)
13:30 パリ日本文化会館『蒸発』アンドレアス‧ハルトマン監督 ∕ 森あらた監督
16:00 パリ日本文化会館『福田村事件』森達也監督
19:30 パリ日本文化会館『瞼の転校生』藤田直哉監督 ★=ゲスト来場
12/11(水)
13:30 パリ日本文化会館『BLUE GIANT』立川譲監督
16:30 パリ日本文化会館『瞼の転校生』藤田直哉監督 ★=ゲスト来場
19:30 パリ日本文化会館『白鍵と黒鍵の間に』冨永昌敬監督
12/12(木)
13:30 パリ日本文化会館『あんのこと』入江悠 監督
16:30 パリ日本文化会館『PERFECT DAYS』ヴィムヴェンダース監督★=ゲスト来場
19:30 パリ日本文化会館『CURE』黒沢清監督 ★=ゲスト来場
12/13(金)
13:00 パリ日本文化会館『赤とんぼ』レイコ‧クルック⻄岡 制作‧演出 ★=ゲスト来場
16:30 パリ日本文化会館『八犬伝』 曽利文彦監督
19:30 パリ日本文化会館『孤狼の血』白石和彌監督 ★=ゲスト来場
12/14(土)
11:30 パリ日本文化会館『うなぎ』今村昌平 監督 ★=ゲスト来場
15:00 パリ日本文化会館『Shall We ダンス?』周防正行 監督 ★=ゲスト来場
19:00 パリ日本文化会館『窓ぎわのトットちゃん』八鍬新之介監督(クロージング作品)