Juan-les-Pins – Hôtel Belles Rives



「コート・ダジュール(紺碧海岸)」という表現は1887年に出版された 『ラ・コート・ダジュール』に由来する。同書はステファン・リエジャールが冬を妻とカンヌの別荘で過ごし、南仏を旅した体験を綴ったもので、タイトルは彼の出身地コート・ドール県からヒントを得ているという。当時はロシアやイギリスの富裕層が冬を過ごすリゾートだった。
ジュアン・レ・パンはその本と同じ頃、アンティーブ市の新地区として開発された。第一次世界大戦後、多くのアメリカ人が訪れるようになり、20年代にはエレガントな避暑地として人気を博す。仏実業家ボードワンはカジノを買って改装し、1924年、華々しくオープン。米大富豪グールドは当時のコート・ダジュールで最大のホテル 「ル・プロヴァンサル」を建て、海辺に購入した邸宅の前には松林を設けた。それは「グールドの松林」と呼ばれ、今でも毎夏ジャズフェスティバル(下記参照)の会場になっている。

スコット・フィッツジェラルド(1896-1940)と妻ゼルダも1923年、初めてジュアンにやってきた。その後25年に再訪し逗留したのが、ヴィラ「サン・ルイ」 、現在のBelles Rivesホテルだ。『華麗なるギャツビー (グレート・ギャツビー)』はアメリカで出版されたばかりだったが売れ行きはかんばしくなく、スコットは収入を得るためにジュアンで小説『夜はやさし』を書き始めた。しかし金欠は解消できず、ハリウッドのシナリオライターとして契約を結び、帰国する。1929年パリに戻り、小説に着手しかけたもののゼルダが鬱で入院。31年には実父とゼルダの父が亡くなり、ゼルダは精神病院に入院してしまう。『夜はやさし』を書き上げたのは34年のことだったが、その頃にはもう、大恐慌が20年代の浮かれ気分をかき消していた。

ホテルにはフィッツジェラルドにちなんだバーがあるので、海が見える席に座った。
『夜はやさし』の、ホテルや海辺の描写は100年前のジュアンを彷彿とさせる。フィッツジェラルド夫妻の運命と重なるディックとニコルも下の浜にいるような気がした。(六)


▶ Hôtel Belles Rives – Bar Fitzgerald
33 boulevard Édouard Baudoin
06160 Antibes-Juan-les-Pins
Tél : 04.9361.0279 www.bellesrives.com
国鉄Juan-les-Pins駅からは徒歩10分ほど。
ホテル内には1つ星レストラン、オーレリヤン・ヴェコシェフによるLa Passagèreがある。Bar Fitzgerald でも食事ができる。こちらもヴェコ氏の監修だ。
Côté Antibes
アンティーブのほうへ

アンティーブとジュアン・レ・パンは同じAntibes Juan-les-Pins市にある。両エリア間は歩くと30分かかるが、バス6番で結ばれている。所要時間は15分ほど。アンティーブ旧市街に行くには停留所 Briand下車。
◉Musée Picasso
1946年、ピカソが海に面したこの美術館の一室をアトリエにして制作した油彩とデッサン67点、およびその後ヴァロリスで作った陶芸作品が見られる。
Musée Picasso – Antibes
Château Grimaldi, Place Mariejol
06600 Antibes 12€/8€
月休。9/16〜6/14: 火〜日:10h-13h/ 14h-18h。6/15〜9/15 : 10h-18h。

◉Le marché provençal
食料品の並ぶマルシェ。周辺にはカフェやレストランも。ピカソ美術館もすぐ。
毎日7h30-13h( 6-8月は-13h45)
9〜5月の月曜休。
◉La Pescheria
マルシェ・プロヴァンサル脇の人気店。
スズキ、タイ、ハマチのカルパッチョ、生牡蠣など。12時を過ぎると並ぶので早めに。毎日昼夜営業。
35 cours Masséna 06600 Antibes

コートダジュールのジャズ・フェスティバルといえば、”Jazz à Juan”。

ジュアン・レ・パンとジャズの縁は深い。アメリカ人作曲家コール・ポーターは1922年の夏、アンティーブの半島の先にあるシャトー「ラ・ガループ」を借りて友人を多数招き、多くのアメリカ人をジュアンに惹きつけた。
シドニー・ベシェットは一時ジュアンに住み、避暑地にジャズをもたらした。彼は1951年にはアンティーブで結婚式を挙げ、ジャズの調べとともに町をオープンカーで行進。町全体が歌い踊って結婚を祝った。59年にベシェットが亡くなり、彼への賛辞としてジャズ・フェスティバル「Jazz à Juan」が開催されることになる。
1960年の初回から、チャールズ・ミンガス、バド・パウエル、ディジー・ガレスピーらが出演。60年の間に偉大なミュージシャンがジュアンのステージに立ちフランスでも屈指のジャズ・フェスティバルに。今年はAIR、イブラヒム・マーロフ、ハービー・ハンコックほかを迎えて開催。
▶ Jazz à Juan
7/10 (木)- 7/20 (日) (14日と20日は招待客のみ)
会場:Square Franck Jay Gould
25 Bd Edouard Baudoin 06160 Antibes
Tél : 04.2210.6001 https://jazzajuan.com/
国鉄Juan-les-Pins駅からは徒歩10分ほど。
