
来年1月29日~2月1日に開催が予定されていたアングレームの国際バンド・デシネ(BD:フランス語圏の漫画)フェスティバルが中止になると、12月1日に正式に発表された。作家、出版社のボイコット、地方自治体の補助金支給の取り止めの意向を受け、同フェスを企画運営する「9e Art+」社が「開催は物理的に無理」と中止を決めた。コロナ禍は別として、1974年のフェス創設以来の中止決定に波紋が広がっている。
9e Art+社のフェス財務管理の不透明さや運営方法、フェスの所有者である国際BD協会(FIBD)と同社の癒着の疑惑などがおよそ1年前から問題となっており、今年初めには昨年のフェス中に強姦されたと告訴した同社社員が解雇された問題も浮上。そのため約2000人の作家や出版社が次々にフェスのボイコットを表明した。11月にはFIBDが、2028~36年の9年間の運営委託の新たな入札に同社も参加していることに出版社が猛反発した。こうしたことを受け、アングレーム市の強い働きかけにより、FIBDは出版社、作家、関係自治体が作る「アングレーム漫画発展協会」の傘下に入ることになった。さらに11月20日、同社が来年1月末のフェスを中止しなければ、アングレーム市、シャラント県、ヌーヴェル・アキテーヌ地域圏がフェスの費用の47%にあたる計220万€の補助金の支給を取り消すと表明したため、ついに同社はフェス中止を発表した。
9e Art+社の弁護士は、中止の原因は地方自治体が民間イベントの管理運営に口出しして長年の運営者を排除しようとしているためと強く反発した。同社は2007年からFIBDから委託されてこのフェスを企画運営しており、契約満了の2017年には入札なしで契約が10年更新された。法的には来年1月のフェスの運営者であるから、協会や自治体が提訴される恐れもある。仏紙の報道によると、同社のフランク・ボンドゥ社長(フェス組織委員長)はスポーツイベント出身で、作家や出版社の意見に耳を貸さないと批判されており、作家たちはフェス期間中の労働条件の改善や性差別、性的暴行の防止策を求めていた。
ところが、人口4.2万人のアングレーム市にとって、このフェスの経済的効果は大きく、フェスの存続は死活問題だ。毎年20万人(うち外国人は15%)が訪れ、世界中の漫画関係者6000人が一堂に会する。とくに日本は受賞者も多く出しており、関係も深い。同市には約250人の漫画家が暮らし、独立系の漫画出版社がおよそ10社。漫画、アニメ、ビデオゲーム、映画関係の専門学校が15校で、1500の雇用を生み出してもいることから、フェスが中止となると大きな影響が懸念される。
関係者のなかには1月末に「オフ」イベントを開催しようという動きもあるが、根本的な問題を解決して伝統あるBDフェスを持続してもらいたいものだ。そのためには、作家や出版社の信頼を回復できるような運営者を公正な入札で選ぶことが必須条件となるだろう。(し)



