ルコルニュ首相は10月6日に辞表をマクロン大統領に提出し、受理された。前日5日に新内閣の顔ぶれが発表されたばかりだったが、始動する前に早くも辞職内閣となった。首相就任後1ヵ月未満の辞任に政局はますます混迷の色を深めている。

マクロン大統領は9月9日に側近のルコルニュ軍事相を新首相に任命。組閣の前に来年度予算について各党の意見を聞いて調整するよう求めていた。新首相は野党や労組などと協議して妥協策を探っていたが大きな成果は得られず、予算案でも左派の求める超富裕層への課税は採用しない代わりに持株会社への新税を提案するも、徴収見込み額が少なすぎると批判された。また、年金制度改革の定年年齢の見直しはしないと明言するなど、結局、野党との妥協案を見いだせないまま、ほぼ1ヵ月が過ぎた。

5日には新内閣の18閣僚を発表したが、ボルヌ教育相、ダルマナン法相、ルタイヨー内相、バロ外相、ダチ文化相、ジュヌヴァール農業相など、12人は前バイルー内閣の閣僚が続投。結果的に、18人中14人が与党連合(ルネサンス11人、Modem2人、オリゾン1人)、4人が共和党(LR)となった。

問題のルメール氏カムバック
ところが、マクロン政権で長年経済相を務めたルメール氏の軍事相就任と、サルコジ政権で予算相を務めたヴルト氏の国土整備相就任(両氏とも早くからLRからマクロン派に乗り換えた)にLR総裁であるルタイヨー内相が猛反発。ルメール氏はそもそも財政赤字を増やした責任者だとし、2人の入閣について首相から知らされていなかったと非難した。ヴォキエ、ベルトラン両氏らLRの重鎮からも党員の入閣に反対する声が突然噴出。首相は6日、労使関係者や各政党と妥協案を模索すべく協議を続けたが、理解を得られず、「自分が首相の役割を果たすための条件が整っていないと理解したため辞任を決めた」と説明した。

マクロン大統領、48時間内に新たな組閣を要請。
マクロン大統領は辞表を受理したものの、ルコルニュ氏に与党連合とLRの妥協のための仲介を8日まで続けるよう要請、「それが失敗すれば、責任をとる」という、辞任をほのめかした。同氏はこれを受けたが、後に首相に再就任する意図はないという。服従しないフランス党(LFI)はマクロン大統領罷免の動議を提出し、全左派政党の協議を呼びかけた。だが、社会党はそれを蹴って自党と共産党、エコロジスト党が参加する左派政府の樹立をマクロン大統領に訴え、極右の国民連合(RN)はマクロンが辞任するか国民議会の解散を主張。


今後の政局はいっそう不透明になった。大統領は新たな首相を任命することはできるが、これまでの経緯から、与党連合あるいは今回ルコルニュ首相降ろしに加担したLRから選ぶ可能性は低い。当面は新内閣の閣僚が通常業務を引き継ぐが、政党とは無関係の業務遂行のためだけの内閣を擁立することも可能性としてはある。
大統領罷免の手続きは複雑すぎて時間もかかり、実現する可能性は低いとみられる。国民議会解散は、前回2024年6月の解散総選挙でよけいに不利になった経緯もあり、また、RNがさらに勢力を伸ばす可能性があるだけに、マクロンはあまり気が進まないだろう。
国際社会の不安定さに国内政治のそれが加わり、投資や消費が鈍るなどの経済の不透明さも増してきているという。この状態がいつまで続くのか。いよいよ大統領は抜本的な解決策を提示することを迫られている。(し)

