Concert : Patricia Kopatchinskaja
今年8月に開催されたザルツブルク音楽祭から、モルドバ出身のヴァイオリニスト、パトリシア・コパチンスカヤとカメラータ・ザルツブルクオーケストラの演奏をネット上で聴くことができる幸せ!
リゲッティが1990年に作曲したヴァイオリン協奏曲で始まる。第2楽章のコラールの深く沈んだ表情、最終楽章のパッションあふれるソロ。裸足で体全体を使って演奏するコパチンスカヤの姿を見ていると、この難曲がストレートに訴えかけてくる。
ルネサンス期の短い舞曲のあと、コパチンスカヤが室内弦楽団のために編曲したシューベルトの弦楽四重奏曲14番『死と乙女』が続く。第1楽章冒頭の、緊密なアンサンブルから生まれる響きの音圧、すごいことになりそうな予感。歌曲『死と乙女』のテーマによる第2楽章では、ときには沈黙すれすれ、光と闇が交差する緊張感。コパチンスカヤは『あっちへ行って!残酷な死神よ。私はまだ若いのよ。行ってしまえ!私にさわらないで』と叫ぶ。彼女はシャーマンなのだ。音楽が今、彼女の心と体を吹き抜ける。最終楽章の激情の発露、31歳で亡くなったシューベルトの、死への、諦観ではない、抵抗と怒りがある。(真)