フランスでは近年、農民の受難を描く映画(『Petit Paysan』(2017年)、『Au nom de la terre』(2019年))が注目を集めた。そして2022年はお隣の国スペインから、立て続けに同テーマの秀作が誕生。東京国際映画祭最高賞を受賞したロドリゴ・ソロゴイェン監督『As Bestas ザ・ビースト』や、今回紹介したいベルリン映画祭金熊賞受賞作の『Nos soleils』である。作品のスタイルこそ異なれど、ヨーロッパの監督らは共通の危機意識を共有しているのだろうか。
『Nos soleils』の舞台は太陽が降り注ぐカタルーニャ地方。ソレ家は桃を栽培する大家族で、祖先が地主を助けたお礼に農地を譲り受けていた。だがここにきて現在の地主が太陽光パネルの設置を画策。土地の返還を求めてじんわりと圧力をかけてくる。
農業は人類にとって最も古い仕事のひとつ。農民の生活様式は永遠に続くようにも見える。だが実のところ、21世紀の農民は長い長い“土の文明史”の崖っぷちに立っているようだ。映画はそんな急激な時代の変化に晒される家族のひと夏を、慈しむように見届ける。出演者はオーディションで選ばれた地元の人々。子供から高齢者まで親子三代の全員が、主役であり脇役でもある。
監督は前作『ÉTÉ 93 悲しみに、こんにちは』(2017年)が激賞されたカルラ・シモン。前作同様、本作も自身の出自(家族が桃栽培に従事)を見つめて劇映画に昇華した。
そして思い出すのが、イタリアの女性監督アリーチェ・ロルヴァケルの『Les Merveilles 夏をゆく人々』(2014年)。大自然で生きる人間の営みを、矛盾からも目を逸らさずに温かく包み込んだ作品という意味で似ている。また何と言っても生き生きとした子どもたちが素晴らしい。まるで両者は仲良く腕を組んだ姉妹のような作品なのだ。(瑞)
『Nos soleils』公開は、1/18(水)