「Cinéma muet japonais – Carte Blanche au NFAJ de Tokyo」
1896年、雄鶏の雄叫びとともに産声をあげたパテ社。ゴーモンに次いで、世界最古の現役の映画会社だ。昨年もピエール・ニネ主演の映画『モンテ・クリスト伯』(日本では2025年11月7日公開)が900万人以上の観客を動員するなど、21世紀も映画界を牽引し続ける。と同時に、製作・配給をした無声映画2600本のコレクションを軸とする公益財団も併せ持ち、古典作品の保存や修復、上映に務めているのは映画会社の鏡と呼びたい。
パリ13区イタリー広場近くのジェローム・セドゥ・パテ財団は、古典映画専門の上映ルーム、常設と企画展示があるミュージアム、カフェや研究者用の資料室を備える。ロダンの彫刻が残るファサード、大胆なレンゾ・ピアノ設計の建物も一見の価値があり、映画ファンのオアシス的な文化施設である。

10月8日からは東京・京橋にある国立映画アーカイブ(NFAJ )との協働で、日本の無声映画を紹介する充実の企画「Cinéma muet japonais – Carte Blanche au NFAJ de Tokyo」が始まる。
サイレント時代の傑作と誉れ高い溝口健二の『瀧の白糸』、小津安二郎の『非常線の女』、成瀬巳喜男の『君と別れて』は、全て巨匠の手による1933年製作の作品。さらに、清水宏、伊藤大輔、内田吐夢、牧野省三、村田実など、日本映画史の初期を豊かに彩った重要監督たちの作品が並んでいる。小津が元来得意とするコメディの『突貫小僧』(1929年)は、最近復元された最長バージョンでの上映だ。

また、1920年代の関東大震災後の東京を写した貴重なドキュメンタリーや、大藤信郎、萩野茂二ら日本のアニメの先駆者たちの作品も選ばれた。10月21日19h30からの衣笠貞之助監督『狂った一頁』(1926年)と、22日16h30からの川手二郎監督『乙女シリーズ その一 花物語 福壽草』(1935年)は、語り文化の伝統を紡ぐ活動弁士・片岡一郎氏による活弁付きの上映となっている。

今回、作品選定に携わった国立映画アーカイブの研究員・玉田健太氏に、無声映画の指南役として、本イベントを入門者でもより楽しめるようなお話を伺った。
—–企画意図や立ち上げの経緯は
きっかけは、当館が所蔵する『男一匹の意地』[デジタル復元版](WHERE LIGHTS ARE LOW、コリン・キャンベル、1921年)という、ハリウッド映画史最初期の大スター・早川雪洲主演のサイレント映画です。以前、ジェローム・セドゥ・パテ財団から本作の上映希望がありました。
これをきっかけに、当館とパテ財団の間でやりとりを重ね、パテ財団が2015年から開催している、FIAF(国際映画アーカイブ連盟)加盟館の所蔵作品を上映する「カルト・ブランシュ(白紙委任状)」シリーズのひとつとして、共催でサイレント映画上映企画を行うことになりました。今回、早川雪洲の魅力あふれる『男一匹の意地』ももちろん上映します。また、会期中には当館の岡田秀則(主任研究員)による上映前解説のある回もございます。

—–セレクションのこだわりについて
当館所蔵のサイレント映画から、小津安二郎や溝口健二など有名監督の映画も入っていますが、同時に、海外で開催される日本映画特集で上映される機会の少ない、記録映画やアニメーション作品も多数ラインナップにいれています。日本のサイレント映画の幅の広さを体感できる特集にすることを目標にして作品を決めました。

(右)『お伽噺 日本一 桃太郎 (Momotaro, n°1 japonais)』
—–見逃すべきではない作品や個人的にお好きな作品は
個人的におすすめは、海外に行く息子の見送りに上京してきた父娘が東京見物をするという筋立てで、公共マナーを人々に教えるために製作された『公衆作法 東京見物』(森要、1926年)です。関東大震災の3年後に製作された映画なのですが、自転車、自動車、市電が行き交うにぎやかな街路や、浅草、上野動物園など東京の名所が次から次へと登場し、大画面で見ればまさにタイムスリップした気分です。また、市電の乗り方のシーンでは、アクション映画さながらの危険な乗車・降車の光景も見ることができます。
—–無声映画の魅力とは
サイレント映画、とくに今回上映する作品については、いま見てもびっくりするような斬新な表現を見られる点が面白いです。古い映画であることは間違いないですが、きっと見たことのない「新しい」映画表現に出会えると思います。また、サイレント映画の時代に日本で独自の発展を遂げた弁士付き上映は、サイレント映画を初めて見る方には、とくにお薦めです。映画に話芸のライブの楽しさが加わると同時に、見慣れないサイレント映画をどのように見るのか、よい導き手にもなります。ぜひ、弁士つき上映でサイレント映画デビューをしてみてはいかがでしょうか。(聞き手=林瑞絵)
◎「Cinéma muet japonais – Carte Blanche au NFAJ de Tokyo」展
2025年10月8日から28日迄
プログラムなどはこちら➡︎ www.fondation-jeromeseydoux-pathe.com/event/3016
