(4月13日掲載記事)
カンヌ映画祭は開催約1ヵ月前の4月13日(木)に、例年通りシャンゼリゼ大通りの映画館UGCノルマンディーで記者会見を開いた。第76回目のカンヌは5月16日(火)から27日(土)に開催予定。今年は映画祭ディレクターのティエリー・フレモーの隣に、新会長に就任した元ワーナー・フランスのイリス・ノブロック女史の姿が。勇退したピエール・レスキュールの後を継ぎ、同映画祭史上初の女性会長となった彼女。会見ではドイツ語訛りのフランス語で、サン=テグジュペリの言葉を引用し、「成功するカップルの秘訣は、同じ方向をともに見ていること」と語り、フレモーとの良好な協働関係を強調した。
ティエリー・フレモーによると「若いシネアストとベテランが混在」する今年のコンペ部門。計19本中、最高賞のパルムドール受賞経験者は是枝裕和、ナンニ・モレッティ、ヌリ・ビルゲ・ジェイラン、ケン・ローチ、ヴィム・ヴェンダースの計5人。他のベテラン勢は、ますます躍進の巨匠マルコ・ベロッキオ、引退宣言を撤回したアキ・カウリスマキなどがいる。
カンヌに2年連続の参加となった是枝監督の『怪物』は、先日逝去した坂本龍一が音楽を担当している。そして今回ヴェンダースは、公式セレクションに2本も出品する活躍ぶり。コンペに入った『Perfect Days』は、渋谷にある17カ所の公共トイレを世界的な建築家らが改修するプロジェクトと連動したアートフィルムで、役所広司が出演する。企業案件のように見えるので、あまりコンペ作品に相応しい気がしないのだが、選ばれるに値する魅力があるのだろうか。そしてもう一本のヴェンダース映画が、ドイツ新表現主義の画家アンゼルム・キーファーを追った3D撮影のドキュメンタリー『Anselm』。こちらは特別上映の枠で紹介される。
コンペには女性監督作品が6本エントリー。これはカンヌ史上最多の数である。中でも新顔で注目したいのは、フレモーが「マティ・ディオップに続いてコンペ入りした二人目のセネガル人」と紹介するRamata-Toulaye Sy。長編第1作目にしていきなりのコンペ入り。これは台風の目になるのでは。チュニジア出身のKaouther Ben Haniaとともに、今年は例年以上にアフリカ勢に注目が集まることだろう。
国別で見れば、イタリア映画はナンニ・モレッティ、マルコ・ベロッキオ、そしてアリーチェ・ロルヴァケルと強力な布陣。一方ライバルのフランス映画は、やや小粒感が否めない。カトリーヌ・ブレイヤ、ジュスティーヌ・トリエ、そしてトラン・アン・ユン。ユンはジュリエット・ビノシュとブノワ・マジメルという現実の元夫婦を主演に迎え、料理人と美食家による愛と情熱の映画を作った。
レオナルド・デカプリオとロバート・デニーロが共演するマーティン・スコセッシ監督の『Killers of the Flower Moon』は、今のところはコンペ “外”のエントリー。製作にアップルTVが入っているが、フランスで劇場公開がされるため、ネットフリックスと違ってコンペ入りの条件はクリア。製作者との話し合い次第では、今後コンペ作品に追加されることがありそうだ。
長らくコンペ入りが囁かれてきた宮崎駿監督の『君たちはどう生きるか』は、会見の時点では名前がなし。だが、会見の最後にフレモーからアニメ作品への言及があった。そこから推測するに、もしかすると宮崎駿の新作はアニメのアヌシー映画祭に仁義を通すため、目下映画祭同士で相談中なのかもしれない。追加の作品発表を期待したい。(5/16追記 : 結局コンペ入りしなくてすいません!)
ベネチア入りを噂されていた北野武の新作『首』は、カンヌ・プレミア部門にて登場。多忙な北野監督が弾丸でフランス入りできるか気になるところだ。開幕作品はジョニー・デップ主演、マイウェン監督の歴史映画『Jeanne du Barry』。ただし、こちらはコンペ入りは逃し、コンペ “外”となっている。この辺りの決定は、先日の監督による暴行事件の報道(マイウェンがレストランにて、独立系メディアMediapart創設者エドウィー・プレネルの髪を掴み、顔に唾を吐いて逃走した件。監督はプレネルから提訴された)の影響があるのかもしれない。華やかな開幕作品なのに、記者会見でフレモーがやたらと駆け足で紹介していたのも気になった。
しかし、たとえこのような疑念が湧いても、会見時にジャーナリストは公に質問ができないのだ。なぜなら、去年と同様(https://ovninavi.com/75e_festival_cannes_2022/)、今年も記者会見時に質問時間が丸ごとカットされてしまったから。このご時世にありがちの「リスク管理」なのかもしれないが、これならZOOMで記者会見をしてもあまり変わりがないのではないか。(瑞)
【76e Festival de Cannes】
5月16日(火)〜 27日(土)
●開幕作品
JEANNE DU BARRY de MAÏWENN
●コンペティション部門作品
CLUB ZERO de Jessica HAUSNER
THE ZONE OF INTEREST de Jonathan GLAZER
FALLEN LEAVES de Aki KAURISMAKI
LES FILLES D’OLFA de Kaouther BEN HANIA
ASTEROID CITY de Wes ANDERSON
ANATOMIE D’UNE CHUTE de Justine TRIET
MONSTER de KORE-EDA Hirokazu
IL SOL DELL’AVVENIRE de Nanni MORETTI
L’ÉTÉ DERNIER de Catherine BREILLAT
KURU OTLAR USTUNE de Nuri Bilge CEYLAN
(LES HERBES SÈCHES)
LA CHIMERA de Alice ROHRWACHER
LA PASSION DE DODIN BOUFFANT de TRAN Anh Hun
RAPITO de Marco BELLOCCHIO
MAY DECEMBER de Todd HAYNES
JEUNESSE de WANG Bing
THE OLD OAK de Ken LOACH
BANEL E ADAMA de Ramata-Toulaye SY 長編第1作
PERFECT DAYS de Wim WENDERS
FIREBRAND de Karim AÏNOUZ
https://www.festival-cannes.com/presse/communiques/les-films-de-la-selection-officielle-2023/