シンプルでいながらシックなカジュアルウェアとして日本でも人気のあるAgnès b.(アニエスベー)。ファッション誌「Elle」のスタイリストだったアニエスさんは1973年に自分のブランドを立ち上げ、パリのエスプリにあふれた製品を作り続けてきた。なかでも、スナップボタンが特徴の「カーディガン・プレッションCardigan pression」は1979年以来の定番商品で、昨年で販売40周年を迎えたロングセラー商品。この製品を製造している、パリ南東150kmのトロワの工場を訪ねた。
「服は着心地がよくて素の自分でいられるものがいい」をモットーとするアニエスさんはスウェットをよく着ていた。ある日、これが前開きならいいのにと思い、前ボタンのたくさん付いた聖職者の服のような雰囲気にしたいと13個のスナップボタンを付け、1979年にカーディガン・プレッションが誕生した。綿モルトン(裏起毛素材)で直線的なライン、丸襟の当初からの定番スタイルのほかに、袖なし、フード付き、スタンドカラー、ビスチェ風など年代とともに様々な新デザインを発表し、レザー、薄ジャージー、カシミアといった異なる素材も加え、色も148色。着やすく、飽きのこないデザインは40年経った今も、男性、子どもも含めて多くのフランス人に愛されている。
16世紀の木骨造りの家々が並ぶトロワは、18世紀からニット産業が栄えた町だ。外国製品との価格競争で1960年代には衰退したが、今でもプティ・バトーやラコステの工場がある。アニエスべーはできる限り国内生産というポリシーを持っており、カーディガン・プレッションは当初からトロワのEMO社で製造する。当時、倒産したニット工場を社員持ち株制で1979年に再建したばかりのEMOは、まだ小メゾンだったアニエスべーの少量生産のニーズにマッチ。EMOの生産部長フランシス・ブルマンさんは 「アニエスべーは40年来の信頼できるパートナー」と評する。
スウェット地は裏側を起毛させた綿のメリヤス地なのでニットの一種。EMOは別のニット会社の一角に自社の円形編み機を持っており、1周240cmのスウェット地を編む。それを染色会社で染色・起毛して、自社の裁断・縫製アトリエへ。アトリエにずらりと並んだミシンで各パーツが縫われ、タブ付けやボタン付けも一着ずつ丁寧に施される。最後は点検して、スチームをかけて折りたたんで袋に。「生地を作るのは機械だから難しくないが、縫製やボタン打ちは一つひとつ人の手をかける作業なので丁寧な仕事が品質を左右する」とフランシスさんは言う。生地作りからの一貫した製造過程にもアニエスべーの品質へのこだわりが表れているように思った。
時代を超えて愛されてきたカーディガンの40周年を記念して、昨秋にはカーディガン・プレッションをテーマにした写真展がパリのブティックで開催された。「このカーディガンで気に入っているのは、着る人がそれぞれ自分のやり方で身につけるから」とアニエスさんが言うように、自在な着回しが写真にも表現されている(同写真展は今年の春、京都と東京でも開催予定)。(し)