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詐欺で予審開始」。
パリ裁判所は2月13日、消費者保護団体「フードウォッチ」の訴えを受け、スイス食品大手ネスレのミネラルウォーターについて違法な水処理をした「詐欺行為」で予審を開始した。
この疑惑はすでに昨年1月、ル・モンド紙と国営ラジオ・フランスの共同調査により明らかになり、ネスレも認めていた。ネスレの南仏ガール県ヴェルジェーズのペリエ工場およびヴォージュ山地のヴィッテル等の工場で、仏・EUで禁止されているろ過・紫外線フィルターや活性炭を使用していた。EUではミネラルウォーターにはごみを除去するためのろ過は認められているが、0.8㎛以下のフィルターを使うことや殺菌処理は本来のミネラルや酸素、炭酸ガスなどを含む自然なミネラルウォーターとは認められない。微細フィルターを使った背景には、昨年4月に人糞由来のバクテリア混入の疑いがあるとして200万本のボトルを廃棄し、複数の水源地を閉鎖したように、バクテリア混入の懸念があったためとされる。
しかも、ネスレの政府へのロビー活動が奏功し違反行為が見逃されていたことが、保健省、産業省、首相府や大統領府の担当者とのメールのやり取りなどから明らかになっている。メディア暴露の1年前の2023年1月20日のメモで、保健省のサロモン保健総局(DGS)局長は食品環境労働衛生安全庁(ANSES)の調査に基づいて、ヴォージュ山地と南仏のネスレ工場での採水とボトル詰めを即座に停止することを提案した。このメモはボルヌ内閣の保健省、産業省のほか首相官房や大統領府にも回ったが無視され、逆にネスレの要求する0.8㎛以下の孔径のフィルターの使用が許可されることになった。
ロビー活動は2021年から始まり当時のルメール経済相、パニエ=リュナシェ産業担当相、ヴェラン保健相らが、22年秋以降は、ボルヌ首相の官房長、大統領官房もこの問題を知りながらネスレの圧力に屈していたとされるが、ルメール経済相は24年1月にメディアで報じられるまで知らなかった、ボルヌ首相官房長は覚えていないとし、マクロン大統領もこの件は知らなかったとし、「合意」も「黙契」なかったと反論している。
予審開始とともに、上院の調査委員会による調査も進んでいる。ネスレが微細ろ過を必要としたということは、ナチュラルで良質なミネラルウォーターの確保が水不足や地下水汚染で次第に困難になっているということだろう。ある意味では品質詐称よりもこちらのほうが深刻な問題かもしれない。(し)
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