
黒人奴隷の身分や管理規律を定めた17~18世紀の「黒人法典(Code noir)」を廃止する法案が、5月28日に国民議会で満場一致で可決された。近く上院でも審議され、成立する見込みだ。
「黒人法典」は1685年から1724年の間にルイ14世、15世が発布した、フランス植民地における黒人奴隷の管理に関する一連の勅令のこと。黒人奴隷は主人の“動産”とみなされ、主人は奴隷に衣食住を与える義務がある。奴隷は主人が許可すれば婚姻もできるが、自分の土地を持てず耕せず物を売買できない。主人やその家族に暴力をふるったり、牛馬を盗んだり、再三脱走すれば死罪となる、などといった内容だ。奴隷制は1848年に廃止され、黒人法典はとうに効力は失っているが、正式には廃止されていなかった。
法案は中道の「自由・独立・海外領土党」(LIOT)が中心となり、極右以外の全政党の賛同を得て提出されたもので、出席した254人の議員全員が賛成した。議場では仏本土と旧植民地である海外領土・海外県の間の格差、黒人差別などが議論に上った。
なかでもスティーヴィー・ギュスターヴ議員(エコロジスト)は、アフリカから連行されて奴隷になった、自身の曾祖母の祖母に言及し、「私たちは〈奴隷の子孫〉ではない。自由人として生まれながら奴隷におとしめられた人間の子孫だ」と訴えて大きな拍手を浴びた。同議員は、奴隷制は人種差別として今も残っており、グアドループとマルチニックの劣悪な農薬(クロルデコン)汚染や、断水、物価高など本土との格差に関する「賠償」を今後の政府の施策として提案した。
マクロン大統領は5月21日、奴隷制および奴隷貿易を反人道罪と規定したトビラ法(2001年)制定25周年の記念式典で、黒人法典廃止法案への賛意を表明し、その犯罪に対する「賠償」が必要だとフランス大統領として初めて言及していた。実は、これに先立つ3月25日、国連総会でガーナが提案した、「奴隷制および奴隷貿易は最悪の反人道罪」としたうえで、加害国は謝罪や賠償、補償などに取り組むべきという決議案に対し、米、イスラエル、アルゼンチンの3国が反対、フランスを含む欧州連合(EU)加盟国、日本など52ヵ国が棄権。最終的には賛成123票で可決された。
フランスなどの棄権にはアフリカ連合やカリブ海諸国が猛反発し、4月にはガーナの大統領が仏大統領府に招かれて、「賠償」についての協議があったとみられる。いずれにせよ、かつては多くの奴隷が連行された海外県では、奴隷制の遺産である社会的・経済的不平等の解消といった具体策が待たれているようだ。
1848年の奴隷制廃止に際し、奴隷の所有者は奴隷を失ったことに対して賠償金を得たが、当時、フランスから独立したハイチは1億5000万フラン金貨という当時としては莫大な賠償金を負わされ20世紀半ばまで払い続け、国の経済発展を著しく妨げたとされる。マクロン大統領は昨年4月、この賠償金を「歴史の不条理な力」と認めたが、この件は明確に今後の「賠償」の対象になりうる事案だろう。海外県と本土の格差問題、奴隷制や人種差別に関する教育のあり方など、賠償や補償の形態が今後どのような形をとっていくのか、見極めていきたい。(し)
