貧者救済や、貧困者の住宅難・社会的疎外の問題に1950年代から取り組み、国民の絶大な支持を集めた故ピエール神父(1912~2007)の性的暴行に関する証言が7月に続いて9月6日にも報じられ、波紋が広がっている。
ピエール神父は1954年に市民団体「エマウス」を創設し、住居や仕事の確保など貧困者の救済活動を生涯行なった。日用品や家具、衣類などの寄付を収集し、必要なら修理して店で売るなどの活動を通して、社会から疎外された人々に働く場を与えたり、宿泊施設や低家賃住宅を運営するなどの市民活動を促進し、国外にもエマウス運動を広めた。神父は「フランス人の最も好きな人物」の1位を長年占めるなど、国民の圧倒的支持を受けていた。
エマウス(エマウス・インターナショナル、エマウス・フランス、ピエール神父基金)は2023年に神父の性的暴行の通告を受けて、その調査をコンサルタント会社エガエ社に依頼。同社は7月17日に1回目の報告書を提出し、エマウスの従業員やボランティアら7人の女性がピエール神父から、キスを強要されたり胸を触られたりといった性的暴行を1970年代末~2005年に受けたという証言を公表、大きな反響を呼んだ。
さらなる証言の呼びかけに対して新たに17人の証言が集まり、第2回目の報告書がエマウスにより6日に公表されたた。それによると、1950年代から2005年までに、当時8~9歳の少女がキスを強要されたり、困って助けを求めてきた女性たちがフェラチオを強要されたり(仏法律ではフェラチオは強姦に相当)、スラックスの上から性器を触られたりしたという。
神父が女性と性的関係を持っていたことや、神父の性的衝動については1950年代からエマウス内部やカトリック教会の一部では知られていたが、神父は国民の圧倒的支持を集め、国際的にも名声の高かったために握りつぶされた、と神父の伝記執筆者らは指摘する。神父の米、カナダ訪問の際にも性的関係を求められたという女性から苦情があり、ケベック州を去るよう警察から要請されたこともあるという。57年には半年間、スイスで精神科の治療を受けており、カトリック教会も問題を把握していたらしい。
第2の報告書を受け、エマウスは6日、ピエール神父基金の名称を年末までに変更すること、エマウス・フランスとその加盟団体は「創設者、ピエール神父」の表記をロゴから外す提案を12月にすること、神父が埋葬されたエストヴィル(セーヌ・マリティーム県)にある、神父をしのぶ家を閉鎖する方向で検討すると発表した。また、神父の行為がほぼ半世紀にわたって非難を受けずに継続していた原因を探る独立専門家委員会を立ち上げる。エマウスの事務所にあったピエール神父の銅像は、すでに7月に撤去されている。
エマウスは性的被害の証言を年末まで募集し、被害者が心理カウンセラーやエマウス責任者と面会できるよう計らうとしている。また、9月9日には被害者への損害賠償についても検討すると発言。カトリック教会の聖職者による性虐待の補償を扱う機関もピエール神父の未成年被害者に対して補償する用意があるとした。補償が実現するに越したことはないが、もっと早くに問題が明らかにされていれば、被害に遭わずに済んだ人も多かったのではないだろうか。(し)