北口英範さん (45歳)
Duroc駅近く、マイエ通りにひっそり店を構えるH.Kitchen。一度来ると何度も通ってしまうという噂どおり、ほぼ毎日通う弁護士さん、週に2、3回通うという女性2人組や数軒隣にブティックを持つご夫婦などが、カキのオムレツ、ブルターニュ産エイのアサリと野菜添え、マスタード風味が絶妙の仔牛のエスカロップを楽しんでいる。
北口さんは大阪・箕面市(みのおし)の高校を卒業後、たまたま見たテレビの料理番組がきっかけでフレンチの道に。料亭の洋食部で10年働いた後上京。東京からパリのレストラン数十軒に手紙を出したところ、Relais Louis XIII から即採用との返事が。パリでの生活が始まる。
その後、Jamin、Atelier Robuchonをはじめ、ディスコが併設されたブラッスリーや、モナコ、アルザス地方のレストランでも経験を積む。数々の転職の裏には、店の経営事情で辞めざるを得なかったり、店の方針と合わず自ら辞めた場合も。「日本だったら我慢するはずなのは分かっている。でもそういうのを全てとっぱらってパリに来たから、自分がやりたいことを大切にしたい。間違ったことを続けるために、我慢する価値はない」と当時思っていたという。
転機は2008年にやってくる。アルザスを離れ再びパリに戻り、Chez les Angesでシェフとして働くも、経営者と方針が合わず辞める。辞めた後 「後ろには戻りたくない、横を見ても違う、これは前に進むしかない」と決断。
資金集めの後、2012年にH. Kitchenをオープン。 「好きなことを自分でやって生かされている、それを続けていられるだけで十分です。レストラン経営は、トータルで考えないといけない。うちには足りない部分がたくさんある。でもお客さんにH.Kitchenのあれが食べたいと思わせる、ちょっと他にないものを目指しています」。
店の方針は ”On partage le plaisir” 。自分が食べたいと思うもの、そしてお客さんが食べたいというものを作り、喜びを分かち合う毎日だ。(た)