冬でも天気のいい日には、パリのカフェのテラスは人でいっぱいになる。パリのカフェといえば、すぐに布製の日よけ (store)が張り出したテラスが思い浮かぶほど、それはパリの風景の一部になっている。そこで、イル・ド・フランス一の日よけ製造・施工のデュポン・キン社をパリ南郊のバニューに訪れた。
同社は馬車の幌などを作るデュポンさんと、金属構造物製造のキンさんが1877年にパリで設立したもの。創業140年だ。当初は荷車や馬車、トラックなどの幌を製造していたが、パリの商店が日よけを付けるようになった1930年代にメイン製品を日よけに転換。その後、オーナーが何度か替わって創業者の家系を離れ、1996年にポルト・ドルレアンからバニューに移転した。2008年の金融経済危機で社業は低迷し、オーナーが手離そうとした会社を中小企業再建で定評のあるジャック・ブド氏が2011年に買い取った。デュポン・キン社は、顧客の要望に柔軟に対応する戦略が奏功し、年商380万ユーロの安定した企業に立ち直った。首都圏のカフェ・レストラン、ホテル、商店を中心に、年間2000ヵ所に日よけを設置する。
事務所も入れて2000m2のアトリエを案内してくれたのは、09年に自動車関連分野から転職してきたジミー・モネスティエ社長だ。リールから仕入れるアクリル繊維のカラフルな布 (1.2m幅)が、ミシンで注文の形状とサイズに縫い上げられた後、ロゴや店名、その他の文字がプレス機で熱圧着(90℃)される。大きなロゴや文字は手書きのペイントやアップリケにすることも。例えば有名カフェ「フーケッツ」のロゴは本物の金箔だ。最近ではLEDをテント地にはさみ入れてロゴや文字が光るようにする注文も多い。こうした布地部分と同様に重要なのは、布を支える部分や稼動部分だ。一つ一つが仕様の違う注文製造だから、日よけ布を支えるフレームやアーム、パイプ、可動式なら日よけを巻き取るシステムなどすべて自社で製造し、トラック10台をフル稼動させて取り付けに出向き、メンテも行う。
同社のノウハウの要を尋ねると、「顧客の要望と設置場所に応じて、布部分やサポートシステム全体を提案できることと、手縫いです」という答えが返ってきた。日よけの傾斜した部分と垂れ下がる部分は、手で縫い合わせると格段にきれいに仕上がるのだそうだ。社長によると、「日よけの手縫いの美しさはパリの伝統で、地方にはあまりない」。
こうした特注製造で取付け・メンテもするために、顧客の95%はイル・ド・フランスだが、海外で展開するフランスの企業や店舗からの注文も希にはある(その場合の取付けは現地業者)。店舗の日よけは平均4〜5年で取り替えられる(高級店では平均2年)ため、布の張替え注文が多いそうだ。従業員36人の小さな企業だが、パリの風物詩であるおしゃれな日よけを、いつまでも作り続けてほしい。(し)