この作品は1972年、戯曲家清水邦夫が人生の中で最も自虐的だった時期に書かれたものといわれている。もちろん60年代の学生運動の流れが大きく影響しており、そういった時代背景は決して無視できない。
若い男女は馬鹿陽気で自由な旅をしていた。ある夜更けすぎ、疾走する二人の車はとある民家に衝突する。そこには一組の夫婦と妻の妹が住んでいた。この突然の遭遇は、5人それぞれの人生を奇妙にからませていく。事故のためになくしてしまったメガネを探す男に、妹は自分のメガネを差し出す。「見えなくてもいいの。自分の目で確かめるといい」。この妹の言葉が杉山剛志の演出の核の部分だろう。
今までハッキリと見えていたことがある日突然真っ暗で不確かなものになるというのは、とても恐ろしく、そして困惑することだ。だがその時にこそ、今まで見ていなかった(見えていなかった)ものが、新たな輝きを持って見えてくることもある。
清水作品の特徴は、ふんだんに使用されるヨーロッパ古典劇作家の戯曲を使った劇中劇や詩の引用だ。現実と非現実をさまよう登場人物たちを俳優たちは、滑稽かつエネルギッシュに演じている。劇団〈ア・ラ・プラス〉は、東京を中心に活動していて、演出家を含め俳優たちは、現役で活躍するロシア人演出家などに演劇教育を受けた。この企画は、日本とフランスを演劇で結ぼうという発想のもと〈日仏現代演劇文化交流プロジェクト —ジャン=リュック・ラガルスと清水邦夫の往復書簡〉と名付けられ、約1年前にパリで生まれた。(ヘ)
Espace Culturel Bertin Poirée :
8-12 rue Bertin-Poirée 1er M°Châtelet
予約01.4476.0606 7/10迄(5日休演)。
20h。15€/学生12€/会員7€。