元戦場や鉱山跡など、ぼこぼこ穴だらけの状態を “c’est du gruyère !” と言ったりする。グリュイエールは、サヴォワやフランシュ・コンテ地方の山地で牛乳から作られている、加熱圧搾チーズの総称だけれど、穴がぼつぼつと開いているのはエメンタルemmentalくらいだ。この穴は、熟成中にできる気孔だが、ブリア=サヴァランが「グリュイエールのプリンス」と礼賛したボーフォール(写真左)やコンテには穴がない。スイスでもフリブールやヴォーで素晴らしいグリュイエールが作られている。
一般的にグリュイエールは、春になって放牧された牛の香り高い乳を、6月くらいに仕込んだものが11月ごろから出回る。写真右のチーズは、単に「サヴォワのグリュイエール」と記されて売られていたが、薄く切ってじっくりとかみしめると、仕込まれてから6カ月ちょっとに違いなく、ミルキーな風味、木の実の香りが広がる。これが12カ月、18カ月と熟成されると、色もアイボリーから深いクリーム色に近づき、アミノ酸の粒がシャリッシャリッと歯に当たり、深い味わいを持つようになる。(真)