天井に届きそうな背の高い椿、ケシの花、カラー、白バラ、アマリリス、桜や柳の枝も伸びている。ショーウィンドーから眺める花工房は、絵葉書のような光景だ。「人工的な取り繕ったものが大嫌いなんだ。ありのままの自然を表現したい」というのはオーナーのシャペルさん。190センチの長身で、まるで森の中からやってきた主(ぬし)のような風貌。ノルマンディー地方カーン出身、幼いころから土に慣れ親しんで育った。園芸学校を卒業後、幾つかの店で修業して、当時、パリの花業界に革命を起こしたクリスチャン・トルチュに師事する。そこでは毎朝4時に起きて、ランジス中央市場の買いつけを取り仕切った。1998年に独立。パリ1区、パレ・ロワイヤル裏手の、北東にのびるリシュリュー通りに20平米の空間を見つけた。「この辺りは、流行には左右されない、どっしりと落ち着いた雰囲気がある。パリのど真ん中なのに、控えめなところも気にいっているんだ」。店の向かいには、マリー・アントワネットのお抱えデザイナーだった、ローズ・ベルタンの住まいが望めるし、50番地にはポンパドゥール夫人の私邸(現ワシントンホテル)もあった。モリエールやコレットが暮らしたアパートやコメディ・フランセーズもすぐそこ。 「花屋にとって、一にも二にも三にも重要なのは、場所の選択です。10年前は、6区や7区の一等地に店を構えるのが主流だったけど、そんな風潮には従いたくなかったんだ」。大柄な花を使ったダイナミックなアレンジが話題をよび、高級ホテルやファッションショーの注文が殺到する。ふだんは脇役に甘んじる枝葉や木の実をとりいれて、のびのびとした野生的なスタイルを作りだした。そして今や店舗は130平米に拡張した。 四六時中、花に思いをめぐらせ、バカンス中も、その場所にどんな花を生けようか、空間演出のことばかり考えてしまう。「周りの人間からはあきれられるんだけど…」と笑いながら、「花はストックできない散りゆくアート。この仕事はキツイ肉体労働で、表面の華やかさとはかけ離れているけど、やっぱり花を見ると心が和む」という。パリの花屋は地方と違って母の日ではなく、バレンタインデーが年間最大のかきいれ時。「今年はチューリップやルノンキュール(アネモネに似た可憐な花)が街を埋め尽くすよ」(咲) Stéphane CHAPELLE : 29 rue Richelieu 1er 日休。 |
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●Le Café Corrazza パレ・ロワイヤル庭園の回廊にある、シャペルさん行きつけのカフェ。大理石の小テーブルに、金色でアクセントをつけた椅子、ほの暗く赤い灯…界隈の洒落た男性諸氏に人気がある。ランチコースはメインとデザートで15.5e。ピザ、パスタ、ブルスケッタなどイタリア風軽食と、スコーンやマフィンのホームメイド・スイーツ。春になれば庭園の前にテラス席が設けられ、陽光を浴びながら寛ぐ人で賑わう。 11-12 Galerie Montpensier 1er 01.4260.1352 M。 Palais Royal 12h~0h。月休。 |
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