1月8日、200人の記者を前にワンマンショー的な記者会見でサルコジ大統領が明らかにした「国営テレビからCMをなくす」意向は、経済相も文化相も予知してなかったことだけにテレビ界にはビッグバンにも等しい爆弾宣言。
France 2やFrance 3、ArteなどからCMがなくなれば、TV界で約25%を占める国営テレビの広告収入、約8億ユーロが民放テレビTF1やM6に流れるのは確実で、大統領の発言後、株価の終値がTF1は9.94%、M6は4.49%の急上昇を記録した。2004年に開始され、現在18局の番組を無料で送信する地上波デジタルテレビ放送TNTも、国営テレビからCMがなくなれば、その分広告収入が2倍になり、ラジオや他の広告媒体にもそのおこぼれが…とメディア界が捕らぬ狸の皮算用。なかでもいちばん喜んでいるのは、サルコジ大統領の親しい友人の一人、民放テレビTF1の総裁マルタン・ブイーグ氏だろう。現在のTF1の1日のCM時間140分(テレビのCM市場の55%を確保)を、番組をさらに細切れにすれば160分に延ばせるからだ。
反対に大統領の突発発言で大ショックを受け、暗たんとしているのは国営テレビの広告部門で働く300人の社員だけではない。国営テレビ画面にCMが入らなければ、3時間分の空白を埋めなければならず、それには最低12億ユーロの予算が必要だ。政府はこれ以上視聴料(現在116ユーロ)は上げられないだろうから、将来、国営テレビ5局のうち何局かを民営化するのでは…という不安で全社員が戦々恐々としている。
では国営テレビの財源の29%(視聴料64%)を占めるCM収入、約8億ユーロは何で埋め合わせするのか。大統領の案では、民放テレビのCMに25%位課税し、インターネットや携帯電話にも1%ほど課税すれば難なく8億ユーロは捻出できるという。ブイーグ氏所有の携帯電話業界大手ブイーグ・テレコムも課税対象となるが、大統領と友人同士、ギブアンドテイクの政財界人の暗黙の了解がうかがわれる。そもそも1987年まで国営だったTF1を民営化の時に買収したのが、建設業界最大手ブイーグ・グループなのだ。
France 2や地方色の強いFrance 3、仏独共同のArteは、映画も地味な作品が多く、真面目なドキュメンタリー番組や政治討論会など、一般的に中年以上かインテリ層、中産階級以上の視聴者が多いと言われている。そのなかで絶えず民放TF1との視聴率争奪戦に明け暮れる。80年代にも社会党政権が国営テレビからCMをなくす構想を練ったこともあり、サルコジ大統領のCM廃止案は社会党の旧構想の復元でもある。
サルコジ大統領が公言した国営テレビのCM廃止案は、3月の市町議会選挙後に国会で審議され、成立すれば来年から施行となりそう。(君)