少しずつ女性が進出してきているとはいえ、高級レストランの厨房は相変わらず男性世界。2007年版のミシュランガイドで、リヨン市と南仏の中間に位置するヴァランス市にある〈ラ・メゾン・ピック〉のシェフ、アンヌ=ソフィー・ピック(37)が三つめの星をもらったが、女性としては1933年のユジェニー・ブラジエ以来53年ぶりというビッグイベントだ。夫で店の運営を取り仕切るダヴィッド・シナプランや厨房スタッフに囲まれシャンパンで乾杯。「この栄誉は祖父、そしてとりわけ父のジャック・ピックに捧げたい」と語った。 実家は代々の老舗レストランで、祖父はエクルヴィス(ザリガニ)のグラタン、父親はシャンペン風味ソースのスズキなどで評判をとっていた。1972年、父親は三つめの星をもらったが、それに値しないと返上。翌年になってようやく受け入れる。アンヌ=ソフィー・ピックは、経営学をパリ、米国、日本などで学んでいたが、1992年夏、病気の父のもとに戻る。その直後に父は死亡し、兄のアランを助けながら、下積みから厨房に立つことになる。1995年、〈ラ・メゾン・ピック〉は星を一つ失い、アランは失望から身を引く。アンヌ=ソフィーは、夫の支えもあって、店の大改造に乗り出しメニューも一新する。数少ない女性のシェフということもあって、初めのうちは風当たりも強かったが、ヒラメとリュバーブ、あるいはラングスティーヌとレグリス(甘草)を組み合わせた料理などで、注目を浴びる。「彼女は、レ・ピック家特有の性格を継いでいて、はにかみ屋で前に出ることを嫌うけれど、厨房ではその味加減、火加減、盛り付けの正確さで、周りをあ然とさせて引っ張っていく」と友人のシェフ。 厨房で化粧なしでスタッフに君臨するアンヌ=ソフィー・ピックだが、家では一歳半の息子ナタンと過ごす時間を楽しみ、美しいドレスを着て演劇を観に行くことが大好きで、女の子のようにぽろぽろ涙を流すという。(真) |