高名な遺伝学者で、ホームレスや滞在許可証を持たない移民を支持するデモに欠かさず参加し、時には目に涙を浮かべたりしながらも熱弁をふるうアルベール・ジャカール氏(80)が書き下ろした『Mon Utopie 私のユートピア』という一冊が発売された。「私も一つのユートピアを示すことが義務であるような歳になった(…)」。その口調は、たき火を前に息子や孫たちにゆっくりと語りかけるアフリカの長老を思わせる。「ユートピアは実現可能でなければ意味がない。本当に重要なのは教育に関するプロジェクトだ。未来は学校の中にある」。そのユートピアでは、疎外としての労働が姿を消し、〈教える=教えられる〉の交換関係が社会の中心に据えられる。 1925年リヨンで生まれる。体育をのぞけば何でも得意の小・中学校時代。20歳でポリテクニック(理工科大学)に入学。その後は米国のスタンフォード大学に留学して人類遺伝学を学ぶ。帰国後は国立統計学研究所で研究を続け、医学部などで教べんをとった。自分の専門の立場から、「各人種間に生まれながらの優劣があるという常軌を逸した考え方」と終始闘い続け、1987年、リヨンの元ナチス親衛隊長クラウス・バルビー裁判では、証人として、ユダヤ人大量虐殺を糾弾した。(真) |