「家にいた、そして雨が降り始めるのを待っていた」。タイトルどおりの台詞で始まるジャン=リュック・ラガースのこの芝居は、母と三人の娘、そして同居する老女が主人公。かつてこの家には、父と息子という男たちの存在があった。ある日、父と息子は大喧嘩をし、息子は家出、父は間もなくこの世を去る。そして女たちは残った唯一の男(息子または兄弟)の帰りを、首を長くして待つ日々を、数年間、いやもしかすると十数年間過ごしている。そしてある日、突然の帰還、精根尽き果てて死人のように舞い戻る男はそのまま床に伏せ長い眠りにつく。 ベケットの『ゴドーを待ちながら』では待ち続けても相手が現れないが、本作品ではくたびれた挙句に相手が戻ってくる。「沈黙」の恐ろしさ。消息を絶った相手は時と共に美化されていき、残った者は互いに恨みつらみをぶつけあう。訥弁な女たちは、間をおきながら交互に本心を語りはじめ、その言葉がシンプルであればあるほど彼女たちが心に負った痛みが伝わってくる。カトリーヌ・イエジェル、ミレイユ・ぺリエというベテラン女優に混じり、長女を演じるセシル・ガルシア=フォジェルの演技が光る。久々の逸品。演出はジョエル・ジュアノー。(海) |
2/8迄(月火金土20h、木19h、日17h) 9.50€~21€。 |
●Hedda Gabler イプセンの『ヘッダ・ガブラー』をイザベル・ユペールが演じる。ユペールのガブラーは、ブルジョワ家庭に生まれ愛に恵まれず育った冷酷な女、というイメージにはぴったりだけれど、男を悩ませる「妖しさ」には少し欠ける、というのが私の感想。演出はエリック・ラカスカード。3/5迄。(海) Thatre de l’Odeon : 01.4085.4040
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●Jan Lauwers “La Chambre d’Isabella” 20世紀を生きた103歳の女、イザベラ。彼女は人生を回想する。その脳裏に浮かぶ事柄、ふっとよぎる隠された感情が現れていく。舞台上には、モノローグを続ける彼女のまわりで、踊り、見つめ合う人々。脳内劇場(?) の外在化、という趣だが、もちろん単純にナレーティブなものではない。私たちの社会を俯瞰するその視点は時にアイロニーに富んだものでありつつ、芯にある純粋ななにか、が見える。感情を揺さぶるペシミスティックな表現でも暗さを残さない、その、言葉と身体から発生されるものに、時には笑いに誘われる。この、なんともいえない間とセンスが、このカンパニーの作品の見どころだろう。今どきの日本の演劇好きな人にも(たぶん)おすすめ。(珠) |
8日~12日/20h30。16€/11.50€ Theatre de la Ville : 2 place du Chatelet 4e 01.4274.2277 |
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