フランクフルト行き列車の一等車両で、身なりのよい熟年男女が別々に腰掛けている。ロマンスグレー風の男は「人生の苦渋をなめることに飽き飽きした」と繰り返し、「70に手が届こうというのに若い女性を恋人にもつ友人」を批判する反面、妬むような羨むような発言をする。男はどうも流行作家らしい。一方、女は長旅の供にと男の著書 “L’homme du hasard” を鞄にしのばせているのだが、男の正体にすぐ気がつき、恥じらいから本を取り出すことができない。そして作家についてあれこれ想像をはりめぐらす。 流行劇作家ヤスミナ・レザのこの舞台劇は、終わりの10分を除いてはこの男女それぞれの独り言で構成されている。互いの存在を気にしながらも声をかけることができない赤の他人同士、それぞれの心のうちをそっと覗いてみるという設定だ。男の恥じらいは見知らぬ女性に対してのものだが、女の恥じらいは種類が違う。女は男のファンで作品を通じ男を熟知している。ようやく女が本を取り出す。男は女が自分の存在に気づいていないものと解釈し、この「偶然」に狂喜する。こうして二人は会話を交わし、これが一度きりの出会いかもしれない、と女が大胆な告白をして…。 男役のフィリップ・ノワレも女役のカトリーヌ・リッシュも説得力のある演技を余裕たっぷりに披露する。演出はフレデリック・ベリエ=ガルシア。(海) |
*Theatre de l’Atelier:Place Charles Dullin 18e 01.4606.4924 火-土/21h 土/18h 日/15h30 50F~270F |
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●Joyeuses Paques
復活祭の週末に出かけた妻の留守をいいことに、自宅に若い女性を連れ込んだが、ストのおかげで発ちそびれた妻が突然帰宅するから大変! 夫は苦し紛れに若い女性を「自分の隠し子だ」と紹介するが、それからがまたまた大変で、子供のいない妻は若い娘を我が子のように可愛がり、親子水入らずで復活祭を過ごすことを提案する。今は亡き、俳優で劇作家のジャン・ポワレが、20年前に初演して大成功させた舞台劇を、ベルナール・ミュラの演出でピエール・アルディティ、カロリーヌ・シオル、バルバラ・シュルツという豪華キャストが演じる。上品な服装で裕福な生活をしていても、中身は皆と変わらないじゃないか、と嘘に嘘を重ねるブルジョワ男性の哀れな姿を大いに風刺し、皮肉たっぷり、残酷でばかばかしくて軽い、というブールヴァール劇の基本をふまえ、会話も状況も笑いも早いテンポで展開していく。 ● Les Directeurs 国際市場に進出中の企業で出世を狙う若い管理職たち。誰が会社の業績に貢献し、誰が社長の気に入られるか、そして生き残るのは誰か。彼らの人間関係を通して人間の醜い感情や弱肉強食の世界の虚しさが鋭く描かれていく。ダニエル・ベスの書き下ろし劇 (出演もしている) をエチエンヌ・ビエリーが演出。 01.4544.5021. ●演劇専門の月刊誌”L&A” 演劇の季刊誌 “THEATRE MAGAZINE” が廃刊され寂しい思いをしていたところこの月刊誌を発見。”L&A” はステファン・ビュガさんが昨年6月に創刊した月刊誌で、毎月第一火曜日に発売される。演劇、オペラ、カフェ・テアトル、大道芸、子供向けスペクタクル…などジャンル別の批評やインタビュー、ルポなどが満載されている。50 000部発行。パリ、地方都市のキオスクで買える。18F。 |
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