土曜の晩、メトロ9番線。Mairie de Montreuil 行きの終電に、着飾った若いアフリカ人が次から次へと乗ってくる。窓に映る自分の姿を見て髪を撫でつけたり、友人ふたりが互いにチェックしあったり。終点に着く頃は車両がほぼ満席だ。《ネルソン》に行くのかな?と思ったらそうだった。
「パリのアフリカ」と呼ばれるネルソンは、金・土・日の3日間だけ営業のディスコである。アフリカのスター・ミュージシャン、サッカー選手や大使館関係者など、いわゆるエリートたちが訪れる場所だ。郊外にありながら毎晩入場者が700~1000人、関係者も口を揃えて≪奇跡的≫というほどの大盛況ぶり。
入口でのチェックは厳しい。7月に「レジャー施設、特にディスコでの入場者選別廃止」の協定が、政府とホテル業界の間で結ばれたばかりだが、クラブ側は「人種による選別はしない」と断った上で続けている。セレクションが厳しいほどクラブの株が上がるという現実もあるのだ。ネルソンの入場審査をするフォスタン氏はこの道(phisionomisteと呼ばれる)20年。「いい服を着ていればいいというわけではなく、話し方、態度、全てが考慮の対象です。客の良し悪しは一目でわかります」。いくら限定販売で流行最前線のスニーカーでもVIPでない限り運動靴は厳禁。シックなアフリカ紳士の定番靴ブランドはウェストン。これは「ヨーロッパの服装を廃止してザイールの伝統服を見直そう」と政府の御触れが出た70年代のザイールで、ヨーロピアン高級ブランドでとことんキメてステージに立ったスーパー・スター、パパ・ウェンバ以来の伝統なのだ。クラークスなど断じていけない。ジーンズ、この語を発するのもはばかられる。フォスタン氏ほか4人のスタッフ(プラス警備員ふたり)の審判で《ネルソンにふさわしい》人だけがギリシャ神殿風の内部に入る。 格調高きクラブの神話はこうして維持されてゆく。
土曜の夜はボトルを注文しないと座れないテーブルが多いが、蝶ネクタイのボーイさんがエスコートしてくれるので間違えて座る心配はない。コンゴ、コートジボワール、カメルーン、セネガルなどのヒット曲をふたりのDJが連打するなか、紳士たちはネクタイ、スーツ姿で踊る。汗をかいてシャツが濡れようが、みだりに背広を脱いだりネクタイを弛めたりはしない。踊りながらハンカチで汗を拭く。こういう人たちになると、夜中から朝7時までこの姿勢を崩さずに踊り続ける。パパ・ウェンバのSAPE (*) の伝統ここにあり! 女性は細くても太っていても、体にピッタリした、大胆に肌を見せた服で、これまた格好よく踊るのだ。(美)
*NELSON : 9番線終点Mairie de Montreuil下車徒歩30秒。J.Jaures広場に面したショッピング・センター地階(ショッピング・センターのガレージを改装したディスコなのだ)。入場はドリンク一杯込み110フラン。23:00~翌朝07:00。金曜日は03:00からダンサーやミュージシャンを招いてのソワレ。
*SAPE=Society of Ambienceurs and Persons Elegantの略。être bien sap (いい身なりをする) はフランス語の表現としてすっかり定着している。
MC (マスター・オブ・セレモニー)のヤッファ氏。ネルソンの大切な顔だ。