デザインの勉強をするためにあきさんがパリに暮らし始めたのは7年前、高校を卒業して間もないころだ。高校時代の1年間はアメリカに留学したりと、外国住まいには慣れていたが、パリは特に身近な街だった。アクセサリーブランド”SHINJI”のデザイナーであるご両親は1970年代の数年間をパリで過ごしていたのだが、あきさんが生まれたのはちょうどその時。パリは彼女の出生地なのだ。
美術系の大学や専門学校に入学するには実技の試験があるので、志望者はまず予備校でデッサン力などを養わなくてはならない。あきさんも1年間予備校生活を送り、そして見事にデザイン学校「カモンド」に合格した。日本の学校では専門が別になる、室内建築、プロダクトデザイン、グラフィックデザインがすべて必修というカモンドでは、5年間非常に厳しいプログラムが組まれ、卒業できるのは半数だという。5年ジャスト(留年する人も多いそうだ)で昨年6月に卒業したあきさんは、9月になって、カモンド入学時以来の親友アルノー君と結婚し、二人ともフリーランスのデザイナーとして出発した。昨年から、インテリア業者やアートディレクターなどに積極的にコンタクトをとってきたのが早くも実を結び始め、出だしは順調。現在進行中のプロジェクトは、例えば、ランプや椅子のデザイン、ホテルの空間デザイン、ビスケットのデザイン(!)など、守備範囲は広い。バスティーユ地区にある自宅兼事務所には、コンピュータが2台仲良く並び、仕事も生活も、いつも二人いっしょだ。
「形や色の趣味は違うけれど、根本的にいいものには同時に『いい』といえるし、それぞれのアイデアに率直な意見を遠慮なく言い合える。とてもいい関係です」。いつもいっしょでけんかしないのかな、というのは余計な心配のよう。「これからは、企業や製造業者の生産に直接結び付くデザインワークと、個人的なアートワークとをバランスよく続けていきたい」と抱負を語ってくれた。屈託のない笑顔が印象的な、エネルギッシュでチャーミングなふたりだ。(仙)
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