フランス語を習い始めた頃、「ouiかnonかまずはっきり答えなさい」と迫る先生に曖昧な返事の仕方しか知らない私は大いにとまどった。言葉の学習が進むにつれ、またフランスでの生活が続くにつれ、私の人格は変わらざるをえなかったと思う。今回の場合は、フランス人がとてもポジティブに”rencontrer les gens” (人と出会う) ということについて。
どちらかというと閉鎖的な私である。人と出会うことなど、できるだけ避けたい方である。ところが先日、マーケティングの実習で、自分で作ったアンケート用紙を手に、将来、私のお客さんになってくれそうな人たちを訪問せざるをえなくなった。
どうしよう。唯一の手がかりは、かつての私のパトロンのところ。ドキドキしながら面会の予約の電話をいれる。答えはOK。五分といって頼んでおいた面接は四十分にも及んでしまった。ひとつの質問に答えるたびにパトロンの長い注釈がつく。自分の持っている知識、意見をとてもていねいに語ってくれる。企業の責任者として格好をつけているような面は以前から窺えたけれど、今回はそれに加えて、彼の人に向かう誠実さが感じられてとても快かった。この快感が “rencontrer les gens” の喜びなのだろうか。
別れ際になってこのパトロン、私にはたいそう重要な情報を三つもくれた。「ありがたい」と思うと同時に、私はお預けを食わされていたみたいと直感する。たぬきおやじめ。しかし、これも「パトロン」としてのテクニックかと思えて、相手の手の内が見えたようで愉快でもあった。”rencontrer les gens”のちょっと苦みのある面白さであろうか。 ( baudet du Poitou )
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