南仏のラングドック地方、中世のたたずまいが残るペズナスの町に住むイヴォラ家を訪れた。
モリエールに似た顔立ちのセルジュさんは、この地方では、知らない人がいない腕利きの建具職人であると同時に高級木材を使う家具職人でもある。17世紀頃、この地方に居を構えた富豪商人や貴族たちの古い館の内装から、教会や家の入り口の扉など、当時のままの姿に復元するスペシャリストで、最近は製本機なども製作する。
左官職人だった祖父ゆずりの器用さをもつ彼が、CNRS (仏国立科学研究センター)の生化学博士だった13歳年上のアメリカ人アンヌさんと結婚して、1620年頃に建てられた彼らの家を力を合わせて増改築を繰り返した結果、回廊のある2つのテラスを中心に3つの通りと3つの中庭にまたがる迷路のような構図の家が出来上がった。まるで、この町がモリエールと共に誇る異色歌手、ボビー・ラポワントの歌のように複雑だ。敷地からは年代不明の古い硬貨や水瓶などが当時のままの姿で掘り出されたりして、ちょっとした宝探し気分。昔この付近は井戸や洗濯場があったらしい。
モンモランシー通りから作業場兼アトリエの奥を抜け、裏のフール・ド・ラ・ヴィル通りに接する中庭に出ると、3年前に設置したという彼ら自慢の大きなパン焼き窯がある。時間がない彼らは週末になると、1週間分の食事をこの窯で用意する。モンペリエから戻ってくる大学生の長女サラさんと次女のマリーさんも加わり、アンヌさん手作りの田舎パンやピザ、タルト、窯から掻き出した灰で焼いたメルゲスやソーセージ…。
1階サロンの天井には円形の抜け穴があり、はしごをよじ登って2階のトイレに行く仕組み。2階中央の木造の踊り場は1階のテラスに覆いかぶさるように設けられ、テラスを挟んで寝室と書庫などが配置されている。近くのセルジュさんの私立資料館 L’Art du Menuisier には、16世紀から18世紀にかけての、この地方に伝わる当時の古い扉や金具類など、彼のコレクションが陳列されている。(南)
ペズナスの町とその周辺
ラングドック地方の中心、エロー県にある人口8000人のペズナス Pezenas はモンペリエから50kmの中世の町。
南と北から来る街道の十字路として、この一帯は16世紀から17世紀にかけて商業が栄え、新興ブルジョワジーなど有力者の豪華な館 hotel がこの町だけでも約30建てられた。南仏を巡業中のモリエールがプランス・ド・コンティのために芝居を上演した Hotel d’Alfonce など、多くの歴史的建築物が当時の面影を残し、夏のシーズンには独、オランダ、ベルギーなどから約 5万人の観光客がこの町を訪れる。近くにはブラッサンスが住んでいたSeteや、ローマ時代のブロンズ像”Ephebe”で有名な海水浴場 Agde がある。
市の観光局 : 04 6798.3640
ペズナスへは、モンペリエ発着103番のバスが便利。約 1時間半。片道 48F50。