改装後の人類博物館。
2009年の閉館後、6年の改装工事を経て新しくなった人類博物館が10月に開館した。開館時の長蛇の列が一段落した今は、ゆっくり館内を見られる良い時期だ。といっても、入場者が見学に要する時間が平均2時間半という、見どころ一杯の博物館だから、一度で全部見ようとせず、何回かに分けて見に行くといいだろう。
前身は、今はなきトロカデロ宮にあったトロカデロ民俗博物館だ。トロカデロ宮は壊され、1937年のパリ万博のときに建てられたシャイヨ宮に、1年後の1938年に人類博物館として開館した。
ケ・ブランリー美術館が開館してからは影が薄かったが、今回の新装オープンで一気に遅れを取り戻した感がある。ただし、ケ・ブランリーと違って、国立自然科学博物館に属し、研究者150人をかかえる教育研究機関でもあるので、建物の3階は研究室と保管室になっている。
多くの言語で「ようこそ」と書かれたパネルに迎えられて0階(RDC)から1階に上がる。常設展「人類ギャラリー」は、1-2階とその間のメザニン部分。私たちはどこから来たのか、私たちは誰なのか、私たちはどこに行くのか、がテーマである。
1階は、人と動植物の生殖、性別、グループの中の人間、生と死、他の動物と人間の共通点と違い、人間同士の共通点と違い、人類の祖先、地球上のさまざまな言語、さまざまな地域の人の容貌の違いが展示されている。いわば、ヒトの根源の部分だ。ボーヴォワールの「第二の性」にある有名な言葉をもじって、「人は男、女に生まれるのではなく、男、女になるのだ」と表現した、性とジェンダーの違いを説明するコーナーを設けたことに、ジェンダーをきちんと伝えようという配慮が感じられる。
メザニンは、先史時代のアート部門。人類博物館の至宝というべき、フランス南西部の洞窟で発見された旧石器時代のレスピューグのヴィーナスなど、彫り物が美しい。
2階は、農業と牧畜が始まってからの人類の生活を紹介している。野生動物の家畜化、穀物栽培まではその前の展示から連続している感があるが、その後なぜか一気にグローバリゼーションの時代に飛ぶ。世界各地の生活様式を示すものを展示し、人類の未来を問うている。1階が過去から自分とは何かを学ぶところだとすれば、2階は現在の自分をつきつけられ、「おまえはどこに行こうとしているのか」と問われるところだ。
映像を見る、音楽を聞く、ボタンを押して説明を聞く、画面で説明を読む、彫刻や石器に触って説明を聞きながら感じる、クイズに答えるなど、五感を使って知識が得られる博物館だ。聴覚障害、視覚障害、車いすの人にも楽しめる工夫がなされている点が新しい。
常設展とは別に、10月から7月まで現代美術家の作品を展示するコーナーもある。(羽)
内装をコンペで勝ち取った、博物館・美術館専門の建築家、ゼット・カザラスさん。「建物の壮大さを保ちつつ、入場者が驚くよう威圧的なものではなく、柔らかい雰囲気にしました。川の流れをイメージして、川の中のところどころに岩や石があるように、ガラス張りのコーナーを作り、東南から来る光が展示物に直接当たらないようにしました」。
■ Musée de l’Homme
設備:
0階にレストラン (工事中)とミュージアムショップ。
1階に152席の映写室 「ジャン・ルーシュ」と資料室。2階にカフェ「リュシー」。
Musée de l’Homme
Adresse : 17 place du Trocadéro 16e , ParisTEL : M°Trocadéro
10h-18h 水21h迄 火休