あまり知られていないが、フランスには「Camp de Césarカエサルの陣営」と呼ばれる場所が少なくとも10カ所点在している。ブルターニュ地方の3つを含めた大西洋沿いに5つ、サントル地方とリモージュ近郊に一つずつ、ピカルディー地方に一つ、南仏のガール県に一つ、フランシュ・コンテ地方に一つと、文字通りフランス全土に散らばっていて、形態も様々。ガール県には、実際に陣営跡(廃墟)が残っていてカエサルが通った形跡があるが、単なる小山や丘だけで、言われなければ通り過ぎてしまいそうなところもある。
「Camp de César」の呼び名は、ユリウス・カエサルに由来する場合もあれば、カッシーニ図法を発明した地図学者César Cassini セザール・カッシーニ(1714-1784)が地図上に 「Camp Romain(ローマ陣営)」と記したため、彼の名を取ってCamp de Césarと呼ばれるようになったところ、もしくは「Camp Romain」が時の経過とともに「Camp de César」となったところなど、一概には言えない。全てに共通するのは、紀元前から続く自然がそのまま残されていることだ。
今回はその中でも、フランス自然遺産のリストに登録されているフランシュ・コンテ地方はオート・ソーヌ県にある「Camp de César」を紹介したい。
オート・ソーヌ県の県庁所在地、ヴズールは小さな教会のある丘Motteで有名だが、近郊にも複数の丘があって、そのうちの一つ、Chariez シャリエという村にある丘が丸々「Camp de César」と呼ばれている。標高386メートル。木が生い茂っているので外からはよく見えないが、丘の真ん中から上は、南東部を除いて絶壁。頂上付近で石が地層のように積み重なり、むき出しになっている部分は先史時代(17000~12000年前)に削られた形跡を残す。
頂上に向かうには、唯一なだらかな斜面が続く南東部から入る。「陣営」の入り口には、1999年に自然遺産に登録されたことを示す看板が立っていて、焚き火やバーベキュー禁止と記されている。進んでいくと十数頭の大きな放牧牛に迎えられる。頂上に近づけば近づくほど大木が減り、草むらが増えていく。視界が開けたら、そこが一つ目の絶景ポイント。絶景と言ってもフランスのどこにでもありそうな村を見下ろせるというだけだが、そのどこにでもある村にほどよく癒される。断崖絶壁に沿ってなだらかなコースは続く。途中、分かれ道があって下ってみると、左手に直径数メートルの陥没している部分があり、奥に洞窟らしきものがあった。地面にはシダ植物が生い茂り、これまで来た道とは別世界。自然の多様性を認識する。元のルートに戻って進む。永遠と続きそうな草むらは頂上にも広がる。
頂上は直径200メートルの広場のようになっていて、180度のパノラマ。この「陣営」一番の見所だ。眼下にはヴズールの湖(Lac de Vaivre)が広がり、周辺の緑や田舎町と絶妙の景色を作り出している。秋の天気の良い日に絶景を眺めながらピクニックをするのはどうだろう。
「下山」した後は、シャリエの村で放し飼いにされている、何十頭もの鹿とエミュー(ダチョウを一回り小さくした鳥)も見に行ってほしい。
ヴズール近郊には「Camp Romain(ローマ陣営)」と呼ばれているところが他にも複数あり、前述したシャリエの丘の他にも、雨風に打たれて木靴の形になった石がシンボルの自然保護地区(Réserve naturelle du Sabot de Frotey)が有名だ。
さらに視野を広げて、遺跡の残っているガール県はもちろん、フランス全国の「Camp de César」または「Camp Romain」巡りをするのも面白いかもしれない。(り)
■ Motte de Vesoul
ヴズールの丘
9世紀に丘の上に城が建てられ、16世紀まで城下町として栄えた。現在はカルヴァリオの丘を模したジグザグの急な坂の上に、聖母マリア像の立つチャペルがある。丘そのものは標高378mだが、周りに視界をさえぎるものがないため、晴れた日にはアルプスの山々も眺望できる。
■ Musée Georges Garret
ジョルジュ・ガレ考古学博物館・美術館
17世紀築の修道院が美術館になったもの。
1階にはローマ時代の墓碑、2階ではヴズール出身の画家 Jean-Léon Gérôme の名画を堪能できる。旧市街のど真ん中にある。入場無料。
1 rue des Ursulines 70000 Vesoul
■ おすすめイベント
Festival International du Cinéma d’Asie
来年で22回目を迎える、アジア映画に限った国際映画祭。毎年、8日間の間に90作品を上映、3万人を動員する。コンペティションの参加作品は17本。フェスティバル最終日にグランプリCyclo d’or 賞を含む12の賞が授与される。来年は2月3日~10日。上映はヴズールで唯一の映画館、Magestic (シネコン)で。
■ 特産品
Cancoillotte
オート・ソーヌ県の特産品。フレッシュチーズと少量のバターを混ぜ合わせたどろりとしたチーズ。パンに塗ったり、チーズ・フォンデュのチーズとして食す。脂肪分は3.8〜10% 。
■ アクセス
パリ東駅-ヴズールVesoul間は、電車で最短3時間。ヴズール駅前から市営バスC線、Mairie下車。シャリエ「カエサルの陣営」入口の丘の麓までは2.8km。徒歩も含め45分くらい。歩くのが困難な場合は車(タクシー)で15分くらい。