1月中旬のこと、百名近い警官を動員した数週間の捜査の末、国際的な密売シンジケートが摘発され、パリ13区でブツが8トン押収された。テロに関連した武器や麻薬のヤミ取引だろうか。物々しい言葉の並んだ1月28日のパリジャン紙の記事を読んて、思わずほくそ笑んだ。
押収されたのはカラシニコフでも、爆薬でもコカインでもない。フランスっぽくて、とても安いので、しかもかさ張らないからと、日本へのお土産にまとめ買いをした読者もいるであろう、あのエッフェル塔の形をした小さなキーホルダーだ。よくパリ市内の観光名所で売られているが、路上や広場など公共の場で許可なく物品を売るのは刑法で禁じられている。違反すると6カ月の禁固、3750ユーロの罰金刑が科せられる。
しかし8トン、一つ10gとしても、実に80万個の塔が警察の倉庫に積まれたことになる。テロ事件後の暗い気持ちを吹き飛ばしてくれるような、デラックスな光景を勝手に想像し、ひとり喜んでいたが、13人が事情聴取され、うち5人が拘置されたことと、ブツと同時に押収された現金4万ユーロという金額は、この摘発が単なる景気づけの余興ではないことを物語っている。
昨年2014年は、史上最多の700万人を越える観光客がエッフェル塔を訪れた。土産物を買い求める彼らの財布のヒモは、一般の通行人よりも緩い。わずかな資金で一攫(いっかく)千金を狙うのなら、これほど格好の場はない。当局が目を光らせるのももっともだ。しかし、一連のテロ事件の余波が危惧される中、たかがキーホルダーに警官百人とは大仰な話である。
また、シンジケートのボスがガボン人、その右腕がセネガル人、ブツを卸していた業者が中国人と、外国人ばかりが主犯として逮捕されたこと、そして捜査がチャイナタウンとして知られるパリ13区で展開されたといったことも、いやに強調されている。こうした文脈からは、どことなく「(たとえフランス製でなくても)自国の象徴を外国人が安く売りさばくのは許せない」という不満の発露のようなものを感じる。
だが、実は塔の設計者も本名はBönickhausenで、言わずもがなドイツ系の名字だ。移民3世の彼は〈偽フランス人〉と呼ばれるのが嫌でエッフェルという通称を用いていた。皮肉にもこの国の象徴は、すでに青写真の時点から移民や帰属意識といった問題を体現していたのだ。(浩)