—母国語で読むということ〈ウイグル編〉—
行きつけのカフェで一息いれていると、前のテーブルにフランス人とアジア人のグループが三々五々あつまってきた。そして、おもむろに「次の号は何ページにする?」、「〈フランスの生活〉のコーナーはどうする?」と打ち合わせを始めた。フランス語に混じって聞きなれぬ言葉が聞こえてくる。しばらく待って声をかけると、「私たちは〈Regards sur les Ouigour-e-s〉というフランスーウイグルの文化交流雑誌の編集会議をしている」という答えが返ってきた。
井上靖の小説などでも知られたように、ウイグル人は中央アジアで活躍したトルコ系の遊牧民だ。国は持っていないが、中国の西部には新疆(しんきょう)ウイグル自治区があり、約1963万人が暮らしている。2009年に自治区の首府ウルムチで暴動がおこり、当局の厳しい弾圧があったことが知られているが、今年3月にもタイで218人に上るウイグル族人の不法入国者が摘発され、そのほとんどが中国に送還されたり、ウイグル族の政治状況などを発信していた、ウイグル族の経済学者のイリハム・トフティ氏が国家分裂罪に問われて、無期懲役の判決を受けたりと、シルクロードの真ん中、ちょうど東西の文明の十字路に位置している民族はつねに大国の勢力に翻弄(ほんろう)され、いまも緊張した状況を強いられている。
さまざまな経緯から国外での生活を余儀なくされているウイグル人も多い。雑誌の出版責任者のディヌール・レイバンさんは、中国の大学を出たあと、フランスの大学院でディアスポラと先端技術の関係について研究している。彼女によると、もっともウイグル人が多い国はカザフスタンやキルギスタン、ウズベキスタンなどの近隣諸国だが、日本や文化的に近いトルコにも1万5千人の同胞がいるという。
フランスで2009年に文化交流協会を立ち上げ、2013年に雑誌を創刊したディヌールさんたちの目的は政治的なものではない。彼らの主眼はむしろ文化・学術交流に向けられている。
おしゃれに装丁されたこの季刊誌を開くと、左からフランス語、そして右からはウイグル語で書かれた歴史や文学、語学に関する記事が目に飛び込んでくる。じつに知性に満ちている。それもそのはず、7名いる編集メンバーはみな研究者。中国やトルコの専門家もいる。
しかし、それでいて堅苦しい紙面になっていないのが、文明の十字路を生き続けた民族の独特のバランス感覚がにじみ出ているようで何ともいい。
一番目を引くのは、雑誌の真ん中にある連載マンガかもしれない。ウイグルの史実に依拠した本格的な歴史マンガだ。驚きの声をあげると、作者のラフマジャンさんが照れくさそうに頭を掻いた。「実はエスパス・ジャポンのマンガ教室の生徒なんです」という。どうりでうまくいわけだ。(浩)
●おすすめのレストラン
Tarim Ouïghour : 74 rue Jean-Pierre Timbeaud 11e
01.4355.0473 M°Couronnes/Goncourt
12h-14h30/18h30-23h30 月・土昼休。
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