パリ10区にあるフォブール・サンドニ通りRue du Faubourg Saint-Denisの、北駅から地下鉄ラ・シャペルLa Chapelle駅にかけてが、すっかりインド街になっている。多数のインドレストラン、色とりどりのサリーや結婚衣装、金の装身具などを売る店、そして数々の食料品店。店から流れ出てくるお香の匂いをかぎながら、インド人たちに混じって歩いていると、もうそこはインドだ。
この界隈にある、インドというか、スリランカからやってきたタミル人のレストランに行ったことがある。客のほとんどがとっている昼の定食は、アルミの、いくつかのくぼみがある長方形の皿というかお盆に、鶏肉や牛肉のカレー、レンズ豆のソース、野菜サラダ、ごはんがのっているものだ。ボクらにはナイフ、フォークが出てきたが、他のインド人やタミル人は、器用にそして優雅に右手を使って、カレーとごはんを混ぜながら食べていく。ごはんの替わりにナンをとった客も、右手だけでそのナンをみごとにちぎっては、カレーに浸して口に運ぶ。彼らの真似もいいけれど、左手はご不浄用なので使ってはいけない。ヒッチコックの『知りすぎていた男』の中で、マラケシュのレストランに出かけたジェームス・スチュアートが、左手で鶏肉を食べて店の人に怒られていましたね。
食事が終わった客は、その右手を上げながら地下に降りていく… 初めはビックリしてしまったが、ようやくわかった。そう、下の洗面所まで降りて、その右手を石けんで洗うのです。(真)