国民戦線FNのマリーヌ・ルペン党首の突進ぶりがメディアを独占しているなか、ヴァール県議会のブリニョール郡選出の補充選挙。10月6 日の第1回投票(投票率33%)はルペン党首の息のかかった元ボクサー、ロラン・ロペーズFN候補(48)が40.4%、民衆連合UMPデルゼー女性候補はたったの20.8%、共産党14.6%、緑の党8.9%とも歯が立たない。13日、FN対UMP決選はFNを食い止めようと投票率が45%に上がったが筋肉隆々のFN候補が54 %で悠々当選。
この補充選挙にはわけがあり、2011年ジラルド共産党候補がFN候補に5 票差で負けたのを不服に行政裁判に訴えたため昨年夏にも選挙が行われ、同候補は13票差でディパールFN候補を破った。これも無効となり今回の選挙に至った。エロー首相は「FNの勝利は県レベルに過ぎない」と軽視するが、「ブルーマリーン」が合い言葉のルペン党首の戦略は来年の市議会、欧州議会選挙に向けられ、2017年大統領選をも標的に。
連日テレビで報道される大企業の数百、数千の人員削減(自動車産業や通信機器アルカテル、ブルターニュの豚精肉工場…)、現政府の増税策、国家主権を喪失させる欧州連合、東欧・アフリカ諸国からの大量移民、高まる反イスラム感情、ロマ人たちの空き地不法占拠、宝石店・民家の強盗の増加などへの不安・怒りが沸騰する町々にマリーヌ・ルペンはブロンドのジャンヌ・ダルクのごとく、貧困層、労働者、定年生活者・高齢者、失業しか知らない若者たちに救いの手を差し伸べる。2002年大統領選での60歳以上のFN支持率4%が07 年には8%、2012年には17%に。サルコジ前大統領の右傾路線に慣らされた市民はそのうえを行くルペン党首に共鳴、既成党のオルタナティブ勢力となりかねず保守・左派とも右往左往。
ルペン党首は父親ジャン=マリ・ルペンが率いてきたFNが長年極右政党とみなされてきたので、そのイメージを覆すため10月1日付Express誌で「極右 extrême droiteという用語の使用を告訴する…極右という言葉は蔑視であり、FNを中傷する政治的偏向、侮辱」と意味論上の闘いを政界、マスコミに対し開始した。20年前、父親もル・モンド、リベラシオン両紙を提訴し、極右と書かれるたびに党首の反論記事の掲載を要求したが、判決は「記者の語彙への抑止的検閲…FNを極右と書くのは新聞自身の意見の表示」とし、却下した。
数年来、ノルウェーやスイス、他のEU諸国で台頭しているのが、反イスラム感情を利用しナショナリズムをあおるポピュリスト政党だ。カリスマ性溢れるルペン党首が「フランス人のための社会保障、フランス人のための雇用、フランス人のための医療…」と説くとき外国人滞在者は侵入者でしかない。1972年、ネオファシストグループOrdre nouveauがFN党となりジャン=マリ・ルペンが党首に選ばれた。初心を貫く父親から2011年、娘マリーヌに引き継がれ、「フランス人のためのフランス」をモットーとする彼女に庶民の心がなびく。フランスの看板俳優アラン・ドロンもスイスの日刊紙ル・マタン(10/9)で「FNの台頭を認めるし、応援したい」と、数年前はサルコジ、今はルペン父娘の熱烈な支持者に。(君)